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宴の後①
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「はぁ......ホント、最高だったね!」
ライブが終わり、帰りの電車内で。
華月は興奮冷めやらぬ感じで鼻息荒く、もう何度目か分からない称賛の言葉を口にした。
それからククッと笑い、彼女は私の顔を覗き込んで言った。
「だけど千尋が、ここまでJOKERに嵌まるとはね。
アンタのあんなにおっきな声、初めて聞いたわ」
確かにこれまで私はアイドルに、微塵も興味が無かった。
だけど我が恋人にして同居人、奏くんが出演していたということを差し引いても、彼らのライブはめちゃくちゃ楽しかったし、ワクワクした。
たぶんだけれど私は、奏くんと出逢う前であったとしても、JOKERのファンになっていたと思う。
とは言えもう彼とは出逢った後だし、しかも一緒に暮らしていて、付き合っているのだから、なんとも言えない複雑な気分になるのも仕方の無いことだろう。
「ねぇ、華月。
私ライブの前に、大事な話があるって言ったよね?
......今日はこれから、うちに来ない?」
私の言葉に彼女は、笑顔で答えた。
「うんうん、OK!
なら先に夕飯とアルコール、買い出しに行こっか!」
だけど私はふるふると左右に首を振り、言った。
「お酒は無いけど、夕飯は作り置きがあるから......」
すると彼女はぐわっと目を見開き、いつになく怯えたような表情で聞いた。
「......それってまさか、千尋の手作り?」
失礼が過ぎる、反応である。
これにはまたしても、自然と唇が尖るのを感じた。
そして相手は気心の知れた相手、華月だから、仏頂面のままボソッと告げた。
「何よ、その反応......。違うわよ。
私が作ったわけじゃ、ないから」
そう。昼食は結局外で食べる事になったせいで、このままでは一食分どうしても残ってしまう。
だけど私は彼が用意してくれた食事を、無駄にはしたくなかった。
「なぁんだ、良かったぁ!
命拾い、したわ......」
心底ホッとした様子で言われたが、この女は人の手料理を、一体なんだと思っているのか?
親しき仲にもやはり礼儀は必要なのだと、改めて感じた瞬間だった。
ライブが終わり、帰りの電車内で。
華月は興奮冷めやらぬ感じで鼻息荒く、もう何度目か分からない称賛の言葉を口にした。
それからククッと笑い、彼女は私の顔を覗き込んで言った。
「だけど千尋が、ここまでJOKERに嵌まるとはね。
アンタのあんなにおっきな声、初めて聞いたわ」
確かにこれまで私はアイドルに、微塵も興味が無かった。
だけど我が恋人にして同居人、奏くんが出演していたということを差し引いても、彼らのライブはめちゃくちゃ楽しかったし、ワクワクした。
たぶんだけれど私は、奏くんと出逢う前であったとしても、JOKERのファンになっていたと思う。
とは言えもう彼とは出逢った後だし、しかも一緒に暮らしていて、付き合っているのだから、なんとも言えない複雑な気分になるのも仕方の無いことだろう。
「ねぇ、華月。
私ライブの前に、大事な話があるって言ったよね?
......今日はこれから、うちに来ない?」
私の言葉に彼女は、笑顔で答えた。
「うんうん、OK!
なら先に夕飯とアルコール、買い出しに行こっか!」
だけど私はふるふると左右に首を振り、言った。
「お酒は無いけど、夕飯は作り置きがあるから......」
すると彼女はぐわっと目を見開き、いつになく怯えたような表情で聞いた。
「......それってまさか、千尋の手作り?」
失礼が過ぎる、反応である。
これにはまたしても、自然と唇が尖るのを感じた。
そして相手は気心の知れた相手、華月だから、仏頂面のままボソッと告げた。
「何よ、その反応......。違うわよ。
私が作ったわけじゃ、ないから」
そう。昼食は結局外で食べる事になったせいで、このままでは一食分どうしても残ってしまう。
だけど私は彼が用意してくれた食事を、無駄にはしたくなかった。
「なぁんだ、良かったぁ!
命拾い、したわ......」
心底ホッとした様子で言われたが、この女は人の手料理を、一体なんだと思っているのか?
親しき仲にもやはり礼儀は必要なのだと、改めて感じた瞬間だった。
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