ある日、森の中

ryon*

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サラセニア⑯

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***

「天の川、見えた?」

 洗い物が終わり、お揃いのサンダルを履いた彼女もベランダへと出てきた。

「ううん、見えなーい!」

 クスクスと笑いながら答え、既に生温くなった缶ビールを一気に飲み干した。

「あー......、ホントだ。
 残念」

 きっと俺の心は、食べられてしまったんだ。
 ......初めて逢ったあの雨の日に、あの美しく意地悪な食虫植物《サラセニア》に、全て。

 未だにあのピアスを俺は、捨てられないでいる。
 こんな事を知ろうものなら、久米さんは馬鹿だなって笑うかも知れないけれど。

 彼女の事を、久米さんを愛したようにはきっと愛せない。
 でもその分、誰よりも大切にしてあげなければいけないと思う。

 それが俺の犯した罪に対する償いであり、罰だと思うから。

 口惜しそうに尖らされた唇に、軽くキスを落とした。

「......でも、雨は降ってないからさ。
 逢えてたらいいね、織姫さんと彦星さん」

 彼女の手を取り、そっと繋いだ。
 すると彼女も、クスリと笑った。

「珍しいね、翼君がそういう事言うの。
 そう言えば、なにかお星さまにお願い事した?」

 あぁ......、すっかり忘れていた。
 そっと目を閉じ、そして祈った。

 もう俺にはそんな事、願う権利なんて無いのは分かってはいたけれど。

「あーっ、今なんかお願いしたでしょ?
 何を願ったの?」

 その問いに俺は、笑いながら答えた。

「......内緒!
 さ、もう部屋に入ろうぜ。
 外、あっついからさぁ」

 彼女の不満げな声がまだ耳に届いてはいたけれど、俺はそのままリビングへと戻った。







『......どうかあなたの現在が、笑顔に満ちたモノでありますように』



                                                      【......fin】




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