ある日、森の中

ryon*

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サラセニア②

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久米さんとの出逢いは、今からおよそ四年前。

当時俺がバイトしていた書店に彼が、レポートの作成に使う為の資料を買いに来たのが最初だった。

小柄な体に、同性とは思えないくらい白い肌。
人工的に染められた、柔らかそうな栗色の髪。
大きな...でもちょっと眠そうな二重瞼の瞳が特徴的な彼は、俺よりもひとつ年上だというのに、お目当ての書籍を見付けてふわりと微笑む表情は、とても可愛らしくて。

...完全なる、ひとめぼれだった。

その日は急な大雨で、彼は傘を持っていなくて。
途方に暮れる彼に俺は、折り畳み式の傘を差し出した。

申し訳ないからと困惑顔で断ろうとする彼に、二本あるから遠慮なく使ってくれ、買ったばかりの本が濡れたら困るだろうと、半ば強引にそれを押し付けた。

そしてこの事がきっかけとなり、彼は度々店を訪れてくれるようになって、俺達の仲は急速に近付いていった。

最初はただ、話せるだけで良いと思った。
でもそんなのは、自分自身の気持ちを誤魔化す為の、偽りの気持ちで。

触れたい、触れられたい。
...この人に、愛されたい。

徐々に膨らみ肥大化していく、どす黒く浅ましい欲望。
...でも先に切り出したのは俺ではなく、彼の方だった。

「翼君は二人の時、いつも僕の事をじっと見てるよね?
 ...なんで?」

人気のない、夜の繁華街。
その路地裏で彼は俺を壁際に追い込み、艶やかな笑顔を浮かべ聞いた。

俺は、なんて馬鹿だったんだろう?

可愛らしく、儚げな容姿のこの人は甘い蜜で獲物を誘き寄せ、罠に掛かったが最期。

...その後は骨まで蕩けさせ貪り尽くす、食虫植物だったんだ。
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