ある日、森の中

ryon*

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全部、熱のせいだ⑥

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「何、その表情。
 ......なんで今、そんな顔をするの?
 ぜーんぶ無かった事にして、上司と部下の関係に無理矢理戻したの、アンタの方だろうが!
 なのに、今さら...何でだよっ!!」

 感情が振り切れ、かつてないくらい声を荒げる僕。
 すると彼は戸惑ったように視線をさ迷わせ、何か言おうとして、口を開きかけたのだけれど。
 ......僕はその答えを聞くのが恐くて白衣の襟元を掴み、引き寄せて、彼の唇を自身の唇で塞いだ。

 およそ2ヶ月ぶりの、課長とのキス。
 彼の唇からアルコールの匂いはしないものの、口内に広がるのはあの夜と同じタバコの香り。
 
 彼は最初は少し慌てた様子を見せたものの、僕の後頭部に手をやり、舌に舌を絡めてきた。
 
「ん......っ、ふぅ...んっ!」
 
 ただキスを、しているだけなのに。
 ......卑猥な吐息が、零れ出た。

 彼の体に縋りつくみたいに夢中で腕を回し、さらなる口づけを強請る僕からそっと体を離した。
 それから課長は穏やかな笑みを浮かべ、僕の頭を優しく撫でてくれた。

「駄目......止まらなくなるから、もうおしまい。
 続きがしたいなら、俺んち来る?」

 断られるだなんて、微塵も思っていないであろう余裕の微笑み。
 正直横っ面を張りたくなるくらい、ムカついた。

 でも僕は、小さくコクンと頷いて。
 ......彼にそっと、抱き付いた。

 課長はポンポンと、子供にするみたいに僕の頭をまた撫でて、それからもう一度、軽く触れるだけのキスをしてくれた。

 ちなみに僕は熱のせいで、この時点で完全に理性を飛ばしていたと思う。
 そして後に課長は、ニヤニヤと意地悪く笑って語った。

『あの時の素直で甘えたな久米君、めっちゃ可愛かったぞ。
 ......素直すぎて逆に、なんか変な罠でも仕掛けられんのかと思って、ちょっとびびったくらい』
 
 ......この日の僕を、ぶん殴ってやりたい。
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