ある日、森の中

ryon*

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全部、熱のせいだ③

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 更に表情が険しくなるのを感じたけれど、彼は特に気にするでもなく言った。

「熱は、無さそう......か」

 元々の体温が低いため、熱っぽいのは幸いばれなくてすんだようだ。

 しかし眼鏡の奥で、いぶかしげに、切れ長の瞳が細められた。

 常ならばスルーして、やり過ごす事が出来るのに。
 ......熱のせいで頭が少しだけ霞がかったような状態だったものだから、不本意ながらも恋い焦がれるこの男に触れられた事で、さらに体温が上がり、火照るのを感じた。

 ノンケの癖に遊びで僕の事を無理矢理抱いた課長に恋心を抱いてるだなんて、熱があるかも知れないっていう事以上に、ばれたくない。
 そんなの、死んでもごめんだ。
 僕のプライドが、許さない。

 だから平気なふりをして、また微笑んで答えたのだ。

「はい、大丈夫です。
 ちょっと、寝不足気味で。
 ご心配をおかけして、すみません」

 するとクスクスと可笑しそうに、彼は笑って言った。

「そうなの?
 あんまり夜更かしばかりしてたら、駄目だよ。
 恋人に、叱られちゃうよ?」

 は?......何言ってんの、コイツ。
 そんな相手、もう僕には長い間居ないというのに。

 それでも普段の僕ならこれもきっと、笑顔で受け流せたはずなのに。
 気付くと彼の事を睨み付け、頭に浮かんだ言葉をそのまま投げ付けていた。

「それを、あなたが言うんですか?
 ......叱ってくれるような相手、僕にはもうずっと居ませんよ」

 すると課長は大きくカパッと口を開け、呆然とした様子で僕の事をガン見した。

 何だよ、その顔。
 ......ホント、どういう感情だよ?

 それを見て、あの夜・・・から今日まで隠してきた僕の中のモヤモヤしたどす黒い気持ちが、一気に噴出するのを感じた。
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