ある日、森の中

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サイアクな選択③~side田畑~

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 久米君は、大事な大事な生き残りだ。

 少し眠たげな二重瞼が特徴的な、大きな茶色の瞳。
 社会人としては、俺らのような研究職などの仕事でなければ確実にアウトな感じの、鮮やかな栗色に染められた髪。
 華奢で小さな、女みたいな体。

 初めて久米君を見た時の印象は、子リスみたいなヤツ。
 どうせこいつも、長くは続かないだろうと思った。

 でもそれは俺の、完全なる思い違いだとすぐに気付いた。
 だってコイツ、子リスなんつー可愛い生き物じゃねぇもん。

 さっきは挑発してやろうと思ってわざとあんな風に言ってやったけど、どっちかっていうと久米君は、マングースっぽい感じだ。

 なので研究室内で度々繰り広げられる島崎君と久米君のガキみたいな下らん喧嘩は、俺の中ではハブ対マングースショー的な位置付け。

 俺としてはどっちが勝っても面白いから、ほったらかしにしてきた。
 ガス抜きも、必要だしな。

 久米君は、ゲイだ。
 しかもこんなビジュアルの癖に、突っ込む側なのだという。
 それに彼には年下の、可愛い恋人もいる。

 以前そいつの写真も見せられたけれど、俺とは1ミクロンも被るところがない、笑顔の爽やかな少し幼さの残る好青年だった。

 久米君の右耳のピアスは、その男と片方ずつ分けあったお揃いなんだとさ。
 何かの折りに、さらっとそんな惚気話を聞かされて、正直かなり驚かされた。
 でもだからと言って、それでコイツを差別的な目で見る事は無かったけれど。

 久米君の前でもヘラヘラと愛想笑いを浮かべ、素を見せる事無く、これまでずっと『優しくて穏やかな、よき上司』を演じ続けてきた。

 ......なのにここに来て、性的な目で久米君の事を見る日が来るとか。

 今も金色のピアスは眠る久米君の耳元で朝陽の光をあびてキラキラと輝いているから、まだその恋人との関係は続いているモノと思われる。

 ......はぁ。これ、マジでどうすんだよ。

 普段はあまり感情を顔には出さない癖に、その実スッゲェ負けず嫌い。
 怒りのゲージが上がれば上がるほど穏やかな微笑みを浮かべる、屈折しまくりのひねくれもん

 そんなコイツから、気付けば目が離せなくなっていた。

 お前の性格ならさぁ、敵わないにしろ、抵抗し続けて然るべきじゃねぇの?
 それこそ自身の舌を、噛み切ってでもさ。
 ......何で俺の事、受け入れてんだよ。

「ん...っ」

 どこか色っぽい声をあげ、久米君が寝返りを打った。

 柔らかな栗色の髪に触れ、まだ夢の中にいるらしい彼の頭をそっと撫でる。
 するとふわりと幸せそうに、久米君が微笑んだ。

 その表情は、普段の彼からは想像もつかないほど無垢で、可愛くて。

 ......なのにこの男は決して自分のモノにはならないのだと思うと、また少し苛立った。

「......どうすっかなぁ」

 ふぅ、と溜め息と共に、煙草の煙を吐き出した。

 プライドの高い、久米君の事だ。
 ベロンベロンに酔ってたとは言え、好きでもない男に抱かれた記憶なんか、今すぐ抹消したいモノに違いない。

 想いを告げようが、謝罪しようが、バッドエンドな未来しか想像出来ない。
 となると一番卑怯な方法だが、これが恐らくベストな選択だろう。

 ......全てを、無かった事にする。

 レイプに近い状態だったとはいえ、彼の初めてを奪えたって事、俺としては忘れたくなんかないし、これが最もきっつい選択だけれど。

 恋人がいるコイツに無理矢理手を出した俺が、全面的に悪い。
 なのに勝手に、更に思いを募らせるとか......タチが悪いにも程があんだろ。

 答えは、決まった。
 俺はベッドからこっそり抜け出して、シャワー浴びるため浴室へと向かった。
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