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魔女の目的⑤

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 それからイザベラちゃんは私に、今回東部で発生した謎の疫病の症状を解説してくれた。
 言われてみたら確かに、それはアリシアちゃんに教えて貰ったダマスエルの木の毒性と酷似している気がした。

「確かに症状としては、かなり近い感じがしますわね。
 だけど、イザベラ様。
 ……だとしても、何故あなたはダマスエルの木から、毒の抽出をしようなどという恐ろしい事を考えているのです?」

 扉を閉めていても、中から漂ってくる異臭。
 それに顔をしかめ、聞いた。

 するとイザベラちゃんは再びドアを開け、パタパタと室内へと駆け込んだ。
 そして戻ってきた彼女の両手にしっかりと握られていたのは、一冊の古いノートだった。

「えっと……あの……確証は、無いのですが。
 私の曾祖母が子供の頃、同じような病がこの辺りでも、流行った事があると聞いたことがあって……」
 
 迷うような素振りを見せながらも、たどたどしい口調でポツポツと語り始めた彼女。
 その内容に驚きながらも私は、無言のまま耳を傾けただ頷いた。

「……その時は彼女もまだ幼かったため、分からなかったみたいですが。
 もう二度と同じような悲劇を起こさぬよう、大人になってから、仲間の魔女達と共に生み出したその解毒法が、この日記に記されて……います」

 ゴクリと唾を飲み、イザベラちゃんの手元を凝視する。
 
「ですがこれには、あの……大きな欠点が、ひとつあって。
 ……現代ではもう絶対に手に入らないモノが、材料として使われている……んです」

 そのため彼女は、その代用品として使えそうなモノを探している途中との事だった。

 とはいえまずダマスエルの毒そのものがなければ、実際にその秘薬に効果があるのか、そして安全性に本当に問題がないのかを確認する事が出来ない。
 だから彼女は、その毒を抽出する作業中だったというワケだ。
 
「私のような魔女見習いの人間に出来る事なんて、きっと些細なモノでしょう。
 ……ですが救える命があるかもしれないというのならば、私は全力を尽くしたい……です」

 それはやはり小さな声だったけれど、そこからは絶対に諦めないという、決意のようなモノが感じられる。

 ……何が『忌まわしき魔女、イザベラ』だ。
 やっぱり、めちゃくちゃ良い子じゃないか!

 なのに、近い将来。
 ……こんな天使みたいな女の子が陥れられ、皇太子妃候補者を殺人しようとした人間の片棒を担いだ凶悪犯として、投獄されるかもしれない。
 
 男爵家のご令嬢と、見目麗しいパーフェクトな王子様。
 身分違いのふたりの、ハッピーエンドの恋物語の裏に隠されていた恐ろしい陰謀。

 ……そんなの、絶対に許せない。
 私が全部、ぶっ壊してやる!

 イザベラちゃんの華奢で小さな体を、強く抱き締めた。
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