不器用なハニートラップ

太陽の下で⑤

　こんな風に思う日が来るだなんて、考えた事も無かった。
　そして蒼汰と再会していなければ、そのうち適当にお見合いでもして、可もなく不可もない男性と結婚をしていたに違いない。

　蒼汰とまた逢えて、そして好きになって貰えて、本当に良かった。
　だからといって父親の吐いた嘘は決して許せるモノではないけれど。

「カヲル。俺さ......自分の店を、持とうと思うんだ」

　真剣な表情で私の事を真っ直ぐに見つめ、蒼汰は言った。
　社長の血縁者というだけの理由ではなく、能力面から考えたとしても彼は、嶋田珈琲の次期社長の最有力候補者なはずだ。
　......そして私は、ライバル会社の一人娘。
　
　先日の彼の言葉から、ウチの会社に彼が入ってくれるか、CAFÉ de Yazakiの後継者は今いる社員の中から有能な人を抜擢するかの二択になるものだとばかり思っていた。
　なのにここに来て突如切り出された、第三の選択肢。
　それに......。

「......おじさんの会社の方は、大丈夫なの？」

　蒼汰が居なくなればまずい事になるのではないかと考え、聞いた。
　だけど彼はクスリと笑い、言った。

「大丈夫だよ。もう完全に、軌道に乗ってるし。
　......それに俺が居なくなったくらいで駄目になるような、社員教育はしてないから」
　
　戸惑う私に、蒼汰は優しく微笑んで告げた。

「嶋田珈琲はどちらかというと、渋好みの大人向けじゃん？
　俺は出来れば、子供もワクワクするような店を作りたいんだ。
　俺とカヲルが過ごしてた頃の、CAFÉ de Yazakiみたいなアットホームな雰囲気の」