不器用なハニートラップ

俺だからって、どういう事？③

　一瞬ポカンと口を開けたせいで、私の考えは彼にすべて筒抜けになってしまったようだ。
　眉間に深いシワを寄せ、いつになく険しい表情で聞かれた。

「酔うと、記憶まで無くすタイプなワケ？
　......俺に何をされたか、本当に忘れちゃった？」

　何を、されたか。
　......それは、覚えている。
　途中からではあるけれど、割と詳細に。

　しかしこれは、出来る事ならば私としては振れたくなかった話題だ。
　だけどたぶん、その考えも顔に出てしまったのだろう。　
　蒼汰がニヤリと、凶悪面で笑った。

「ふーん......そっちはさすがに、覚えてるんだ？」
　
　本当に、この男だけは！
　どこまで底意地が、悪いのだろう？

　退路を求めて後退ろうとしたけれど、腕を掴まれ阻止されてしまった。
　だからそろりと視線を上げ、気まずいながらも渋々答えた。

「覚えてるよ。
　......でも蒼汰も、最後までする気は無かったんだよね？」

　私の問いに、彼はまたしても胡散臭い笑顔を浮かべ、答えた。

「そっか、やっぱり覚えててくれたんだ？
　だったら......これも、覚えてる？
　俺は幼馴染みだから、安全だと思ってるんだろって聞いたらさぁ。
　カヲル、他の男が相手だったら、こんな所ラブホになんてついて行かないって。
　......俺だからだよって、答えたんだよ？」

　そんな事、言ったの？......私が？
　......ぜんっぜん、覚えてない。

　だから視線をそらし、彼の魔手から逃れるべく、掴まれた手をブンブンと振り回して暴れながら答えた。

「......記憶に、ございません！」

「お前は、悪徳政治家か！
　なら、仕方ないな。
　カヲル。......今から全部、思い出して貰おうか？」

　蒼汰は、微笑んで言ったんだけれど。
　......彼の背後からは、またしてもどす黒い怒りのオーラが立ち上っているような気がした。

　何この急な、サスペンスホラー展開。
　......大好きな人と二人きりというシチュエーションだけれど、こんなドキドキは求めてない！