不器用なハニートラップ

刺客②

***

　その日は平日だというのに朝からやたらと忙しく、店内は常に混雑していた。

　まだお客様のためにドリンクやフードメニューを作る事を許されてはいないから、私の現在の主な仕事は接客と清掃だ。

　一方蒼汰は、基本的には事務仕事メインなのであまり店内に顔を出す事は無いとバイト仲間から聞いていたにも関わらず、何故かよく厨房で姿を見掛ける......気がする。
　彼がいれたコーヒーを飲めるお客様はラッキーだなんて話だったが、実はアイツ、相当暇なんじゃないの？

　そんな事を考えながらも仕事に精を出し、テキパキと手を動かす私。
　空いた席を綺麗に片付けていたら、聞き覚えのある声で隣のテーブルのお客様から声を掛けられた。

「カヲルちゃん、お疲れ様！
　美希に聞いてきたんだけど、本当にここで働き始めたんだね」

　人懐っこい笑みを浮かべ、その人は言った。

「うゎ......」

　思わず漏れた、迷惑そうな声。
　彼こそが美希の放った、刺客に違いない。
　そう......言わずと知れた、友人の佐藤君である。

「え......？どうかした？
　......忙しそうだし、話し掛けたら迷惑だったかな」
　
　戸惑ったような表情でそう言うと、しょんぼりと項垂れる佐藤君。
　いわゆる爽やかイケメンな彼だけれど、なんて言うか......こういうところを見ると、何となく犬っぽいなと思ってしまう。

　私自身納得の上で美希に頼んだ事だったけれど、正直今はかなり忙しい。
　だけど彼の困ったような、ちょっと情けない仕草が何となく昔の蒼汰を思い出させたものだから、自然と笑顔が溢れた。