不器用なハニートラップ

返り討ちに、遭いました④

　前半の言葉に、少しだけドキッとさせられた。
　しかし中盤の発言でそれは苛立ちに代わり、後半では今度は完全に好奇心が勝利した。
　だからおとなしく、じっと続きの言葉を待ったと言うのに。
　......彼は大きく伸びをしながら、しれっと言った。

「社外秘とか別に、一切無いんだよね。
　バイトも社員も、全員全メニュー、同じように作れるように教育してる。
　だからカヲルもそのうち、作れるようになると思うよ」

　......なん......だと？
　あまりにも予想外過ぎる発言に、ポカンと口を開ける私。
　だけど彼はそれを特に気にするでもなく、続けた。

「それにバリスタ志望の子には、俺か親父が直接研修するしな。
　後々独立する事になった場合も、材料の仕入先までちゃんと紹介してあげてる」

　その言葉に、ガクッと脱力した。

「それにな、カヲル。
　基本に忠実に、心を込めていれたさえ、誰でも美味しいコーヒーをいれる事が出来るんだよ？」

　あぁ、そうか。
　珈琲狂は、嶋田のおじさんだけじゃない。
　......コイツも、そう・・なんだ。

　だってきっとさっきの発言に、嘘なんて一切無くて。
　彼はおじさん同様、一人でも多くの人が美味しいコーヒーを飲んでくれたら、それだけで幸せだって思っているんだ。

　それに気付き、彼の言う通り、自分の馬鹿さ加減に呆れた。
　盗むも何も、私は最初から、この人にお願いしたら良かったんだ。
　......美味しいコーヒーのいれ方を、教えてって。

　嶋田珈琲にあって、CAFÉ de 
 Yazaki に欠けていた物。
　......それはきっと、これだったんだ。