不器用なハニートラップ

返り討ちに、遭いました③

　拳に力を込め、ボディに一撃。
　その瞬間ガクンと崩れ落ち、無様に床に膝をつく蒼汰。

　勝った！勝ったよ、お父さん！

　息を切らせながら、本来の目的を忘れてその場でガッツポーズをする私。
　だけどそこまで大きなダメージは与えられなかったのか、蒼汰はすぐにムクリと起き上がり、お腹を押さえて呆れ顔で笑った。

「この状況で、殴るか？普通。
　それに女が、グーパンって......やっぱりお前、ヤバ過ぎ」

「顔じゃなかっただけ、ありがたいと思いなさい。
　武士の情けで、見えるところは避けてあげたんだから」

　フンと私も鼻で笑い、答えた。
　すると彼はブハッと吹き出し、そのままゲラゲラと笑った。

「なんだよ、それ......。
　見えるところは避けてあげたって、お前、いつの時代のヤンキーだよ！
　あと、武士の情けって......。
　......あぁ、もう、勘弁してくれよ。
　笑い過ぎて、腹痛い！」

　一度ツボにはまると、笑うのが止められないところも、変わらず健在らしい。
　......お腹を抑えていたのは私のパンチが効いたせいではなく、笑い過ぎたためだったのか。
　とはいえ別に笑わせようと思ってやったワケではないから、やっぱり腹立たしいだけだったけれど。
　
「勘弁して欲しいのは、こっちの方だわ。
　......ホント、信じられない！」

　ボソリと呟いた、言葉。
　でもそれもしっかり聞かれていたらしく、彼は今度はクスリと笑った。

「......だってカヲルが、あまりにも可愛い反応するから。
　ハニトラに掛かったワケじゃないけど、ひとつ教えてやるよ。
　うちのフードメニューの、レシピなんだけどさ......」