たとえこれが、恋じゃなくても

悪魔見習いとの契約①

「おい、人間！
　やめろ、今すぐ俺様を放せ！
　は・な・せぇぇぇえ！！」

　ガブリと指を噛まれ、反射的に放り出すと、それは地面スレスレのところで急上昇し、再び空を舞った。

「あっぶないなぁ！
　俺様が危うく、地面に打ち付けられるところだったじゃないか！」

　プリプリと怒りながら、僕の鼻先に突き付けられた小さな人差し指の先。

「……ごめん」

　ワケが分からないながらも実際彼の言う通りだったから、素直に謝罪の言葉を口にした。

「はぁ……次からは、気を付けてくれよな！
　で？なんでお前、死のうとしてたの？」

　それはギュンとスピードを上げ、再び降下したかと思うと、今度は僕の頭の上へ舞い降りた。
　……重くはないけれど、なんとなくムカつく。

　頭に手をやり、悪魔見習いと名乗った小さな生き物をもう一度手に取る。
　だけど今度は掴まえるのではなく、そっと手のひらの上に乗せた。

「死のうとなんか、してないよ。
　ただ色々と、考え事をしてただけ」

　いつの間にか、涙は止まっていた。
　目元を手の甲で拭い、笑って答えた。

「なんだ、そうなのか？
　残念だな。せっかく契約を取れる、チャンスだと思ったのに」

　唇をツンと尖らせ、つまらなさそうに彼は言った。
　
「契約……？」

　まだ子供みたいな見た目の謎生物の口から出た、意外過ぎる言葉にまた驚かされた。

「そうだよ。け・い・や・く！
　聞いて、驚け。
　俺様はなぁ……悪魔見習いなんだ！」

　それ・・は得意気に、にんまりと笑った。
　するとその瞬間、彼の小さな口から、チラリと鋭い牙のようなモノが覗いた。