童貞ですが、何か？

本当の自分①

　そしてそのまま俺は唇を少しずつ下に降ろしていき、彼女の頬や鼻、そして最後は唇にキスをした。

「何度も、言いますが。
　俺はこれを、一夜限りの火遊びで終わらせるつもりはありません。
　......例えあなたが逃げたいって言っても、もう手離してなんてあげませんから」

　そう......絶対に勘違いされては、困る。
　俺は遊びなんかじゃなく、本気で咲良さんの事が好きなのだ。
　真実を告げた時逃げ出されるのを恐れ、臆病な俺は何度も訴えた。
　すると彼女は不思議に思ったのか、こう聞いた。
　
「どうして私があなたから、逃げ出すと思うの？」

　どうしよう？
　......やっぱり今、全てを語るべきだろうか？
　いや、駄目だ。まだ、早い。
　......確実に彼女を手に入れるためには、もう少し本当の俺を知って貰ってからの方が良い。

　ちょっと苦笑して、それからふぅと息を吐いた。

「たぶん俺があなたの理想とは、程遠い人間だからです。
　だけどこれだけは、信じて下さい。
　......俺はあなたの事が、本当に大好きなんです」
　
　困惑したような表情のまま、探るようにじっと俺を見つめる彼女の瞳。
　だけど優しい咲良さんは、それ以上追求する事無く、穏やかに微笑み言ってくれた。

「うーん......なんでそんな事を言うのか、分かんないけど。
　少なくとも私は今こうして話してる仁さんの事、好ましく思ってるよ？」

　好ましく......。ヤバい、めちゃくちゃ嬉しい。
　ずっと大好きだった咲良さんが、芹澤　仁ではなく素の田中　仁一郎を、こんな風に思ってくれるだなんて。

「ありがとうございます。
　俺やっぱりあなたの事が、めちゃくちゃ好きです」

　するとクスクスと笑いながら、幼子にするみたいに俺の髪に触れ、そっと頭を撫でてくれた。

「俺、咲良さんの事、一生大切にしますね」

　自然と溢れ出た、想い。
　しかしその言葉に彼女は、ちょっと苦笑して答えた。

「......早い。そして、重い！
　でも私を好きになってくれて、こちらこそありがと」