やさしい異世界転移

みなと

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第3章 パゼーレ魔法騎士団

【124話】 たった1人の……

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 都市パゼーレへの侵攻からはや数時間、最大の脅威であったディーオンらを誘い出してパゼーレから離すことに成功したおかげで侵攻は順調に行っていた。

 もうすぐにボスからの指令を全う出来る……そう思っていた。

 今目の前で私と対峙している騎士団の少年、彼は私の部下、十戒士候補であるラディアンを倒した少年だ。
 ラディアンは我々の足元にも及ばないとしても腐っても十戒士候補だ、そのラディアンを倒したのだからかなりの実力を持っている。

 しかしそんな彼はラディアンとの戦闘でかなり消耗しており、弱り切っていた。

 だからこそ余裕と思っていたのだ……

 しかしそんな彼の様子が一変した。
 一筋の斬撃が私の横を通り越してそのまま後ろの家屋を切り裂いた。
 しかし彼の武器は先程私が蹴り飛ばした際に手元から離れている、故にこの斬撃は彼の武器によるものではなく、彼自身の魔力のみで放たれたものだとすぐに理解した。
 
「ぶっ殺すっ!」

 彼から放たれる明確なる殺意、彼のその感情は一時とはいえ私の体を震え上がらせた。

 彼はボロボロになった体で立ち上がる。
 上手くバランスが取れないのか足元をふらつかせながら、それでも彼の目は、魔力は未だに弱まってはいない。
 あれは覚悟を決めた戦士の目だ、その目を幾度もなく見てそして潰してきた。

 そんな私だからこそわかる、ここからの彼は油断して挑んでいい相手ではない。
 瀕死の獣ほど恐ろしいものはないのだ。

 彼は左手を私へと突き出した。

「──飛べ」

 彼がそう言葉を放った瞬間に足元に膨大な魔力を感じ、咄嗟にその場を離れる。
 場を離れた次の瞬間には先程まで私のいた場所には空高くまで届くほどの竜巻が巻き上がる。
 竜巻の様子を見てアレに呑まれようものならおそらく体がズタズタに切り裂かれるだろう、そう理解した。

 そしてそれを放った少年は既に先程の場所からは離れていた。
 何故なら竜巻を避けた私に対して追撃するために接近戦を挑んで来ていたからだ。

 彼から繰り出される素手による素早い攻撃。
 どれも直撃すればかなりのダメージをくらうのは必死、だがしかし対応出来ない素早さではない。

 彼の攻撃を私の魔法で一時的に別の場所に飛ばす。
 本来ならここで溶岩だまりにでも繋げられれば勝ちなのだが、その溶岩だまりがある場所とここは離れており、繋げるのにも多少の時間がいる。
 彼の素早い攻撃は意図せず私に溶岩だまりへとワープホールを繋げる事を防いでいたのだ。

 パチンッ!

 彼が攻撃を繰り出してる最中唐突に指を鳴らした。
 いきなりの事で少し動揺するがすぐに立て直そうとする、その瞬間だった。

 足元から魔力を感知する。
 即座に避けようとするも、彼の攻撃によりその場から離れる事が出来なかった。

 私は彼の魔法により上空へと飛ばされる。
 幸いにもこの魔法には大した攻撃力もなくダメージを負わされる事はなかった。

 大地に立つ彼は真っ直ぐにこちらを見据え右手を前に突き出す。
 そして自分の横方向に膨大な魔力を感じる。

 そこにあったのは風の魔力の塊、それが私と同じ高さに存在していた。
 
「──業風の覇弓」

 彼は突き出した腕を右から左へとスライドさせる。
 その瞬間には上空の風の魔力が私へと襲いかかる。
 即座に魔法でワープホールを生成する、ただ彼の魔力の接近が早く何処かへと退避するには時間が足りない。

 そう考えた私は私の体と同じ大きさのワープホールを生成し盾として使用する。
 直撃は免れたものの、風の魔力による衝撃波が私を襲い私の体に浅くではあるが切り傷を残していった。

 彼の魔法も終わり、私は一旦彼から距離を取るために近くの家屋の屋根へと着地する。
 しかし距離を取るという行為は甘い考えだった。
 彼は私が屋根に着地したのを確認した瞬間、足に魔力を溜め地面を蹴り跳躍し屋根にいる私より高い地点へと到達する。
 彼の振り上げている右手にかなりの魔力が込められているのが確認出来た。

「──斬風」

 彼は上げていた手を振り下ろす。
 それと同時に彼の手から風の刃が放たれた。
 彼が手を振り下ろす前に攻撃を察知していた私はすぐに攻撃を避ける為に別の屋根へと飛び移る、先程まで私がいた家屋は彼の風の刃によって真っ二つに割れ崩れていく。

 だが彼はしつこく、私が別の屋根に飛び移ったと知るや否や先程まで私がいた崩れていく家屋に一時着地して再び跳躍して私のいる屋根へと攻撃を仕掛けてきたのだ。

「──斬風」

 また私は彼の攻撃を避けようと別の屋根へと飛び移る。
 それでも彼はまた同じようにして追ってくるのでしょう、都市を守るはずの騎士団の一員が都市を破壊する姿は少し滑稽ですがそろそろ鬱陶しく感じ始めました。

 なので次の一手で確実に息の根を止めましょう。
 私は屋根へ飛び移る最中、私の魔法ワープホールを生成する。

 ワープホールで繋いだ先は凶震戒本部の私の武器庫、私の素の戦闘力は能力依存の為他の十戒士の方々と比べて多少劣る。
 なので私は自分の武器庫を作っては武器を集めその武器を使い相手を倒してきた。
 今回も同じ事、この武器を若い子に使うのは少しばかり気が引けますがこれ以上戦闘を続けるのも面倒です。

 そうして私は武器を取り出した。その取り出した武器は黒く捻じ曲がった小刀、この小刀を選んだ理由それは毒だった。

 この小刀の刃はディハンジョンの深層に棲まう毒牙の魔獣、ガイルの牙である。
 ガイルは捕食対象をその牙で一撃の名の下のに殺しそのまま捕食するといった生態を持つ魔獣だ。

 その毒牙にかかったものは例外なく死に至る、例え魔法で回復しようが毒に対する耐性があろうか関係なくすぐに死に至る。
 それは先程彼の仲間が証明してくれた。

 その牙で作ったこの小刀を取り出す。あとはこれを彼に当てるだけ、失敗はしない、何故なら。
 私にはワープホールがあるからである。

 彼は先程と同じように崩れていく屋根を足場にしてまた跳躍して私の屋根より高い位置に到達する。

 私はワープホールを展開する、繋げる場所は彼の背後避けることは不可能である。
 そして私は毒刀をワープホール越しに彼の背中に突き刺した。

「ゴフッ……」

 結果は直撃、状況も理解出来ないまま突然背中を刺され彼は吐血しながら自分が切り裂くはずだった屋根を転がり倒れる。
 猛毒を喰らったのだもう死んでいるだろう、そう思い私は彼に背中を向けて立ち去ろうとしていた。

 それが甘かった。
 背後に悪寒が走る。
 私の背後に何かがいる。

 振り返る、そこにいたのはたった今毒刀に倒れた少年。
 死んでてもおかしくない、いやこの状況は死んでない方がおかしい。
 何故彼が生き残ったのか、それが私には理解できなかった。

 ──優斗は拳を握りしめ、魔力を込める。

 彼の魔力は風系の魔法、毒を取り除くといった芸当は出来ないはず。
 仮に出来たとしても毒は刺した一瞬のうちに体中をめぐり死に至る、毒を取り除く時間などありはしない!!
 毒耐性があった?いやこの毒はそんな物意味を成さない。

 しかし彼には毒に侵される様子はない、まるで元々毒など喰らわなかったかのような……毒が効いてない、そのような感じだった。

 私が彼に驚いている最中にも彼は私に攻撃を仕掛けようとしている。
 この感じはラディアンを倒した技のような……今この状況でそれを喰らうのはまずい。

 なんとかワープホールで間に合うか!?
 ワープホールを展開しようとするも彼の拳は私へと向かって来ている、間に合わない!そう思った時一瞬だけ──


 何も考えたくない。

 ただひたすらに彼の仲間を殺したあの男を殺すそれだけで優斗は動いていた。

 優斗はずっと人を殺す事に抵抗があった。
 それは元いた世界が平和であったが故の倫理観だった。
 人を殺してはいけない、そんな事は元の世界では普通でこっちの世界に来て魔法という物を得てから彼は人を殺さないためにと無意識のうちに自分の力を抑えていた。

 だがそれは目の前でアグン隊の人達が、ラードフが死んだ事で無意識で一時的だが解除され優斗本来の力が出されていたのだ。

 そして優斗は毒刀を受けても立ち上がりシルドに神破掌を撃ち込もうとしていた。
 だが神破掌を繰り出す一瞬の瞬間、彼の脳内にとある言葉がフラッシュバックした。

「正義の味方になりたいんだ」

 それはかつて優斗がレイナに語った自分の目標、優斗にとってはそれが自分自身を肯定し前へと進む為の道標。
 その言葉が脳内に響き渡った瞬間、優斗は神破掌を一瞬遅れてシルドに繰り出した。

 そしてその一瞬が勝負を決めたのだ。


「まったく大した攻撃です」

 私は少年の渾身の攻撃の後に彼に語りかけた。ラディアンを倒した技、その威力は絶大で喰らえばほぼほぼ一撃だろう。

「まぁ当たればの話ですがね」

 少年が私に突き出した拳は私が展開したワープホールへと入っていた。
 攻撃を行う瞬間、彼が止まった一瞬の隙にワープホールを展開して彼の攻撃を受けずに済んだ。

 攻撃を防がれた少年の顔は絶望感に浸っているようでどこか納得していた表情をしていた。
 私はすぐさまワープホールで自分の武器庫から長物の刀を取り出し彼へと振る。

 しかし私の攻撃は彼の風の魔法により防がれる、しかし彼は私の刀と自分の魔法がぶつかる衝撃に耐えきれずに屋根から吹き飛び向かい側の家屋の壁に激突し落ちる。

 そして私は彼にトドメを刺そうとする。
 この男は危険だ、そう私の中の直感が告げる。彼には何故か毒が効かない、ならどうやってトドメを刺すか、そんなのは簡単だ。

 単純に無数の刃で彼を突き刺せばいい。

 私は無数のワープホールを生成する、そしてそのワープホールから私の武器庫の武器のうち3割、数百もの武器を取り出した。

 この数をくらい生き残るのは不可能、見たところ彼は力を使い果たし私の攻撃を避けようにも上手く体が動かせないようだ。

 さらばだ私に拮抗したたった1人の少年よ
 無数の刃によって沈むがいい
 
 そして私は数百もの武器を少年に向かい射出する。
 勝ちを確信する、十戒士の立場である私からすれば少年のような下っ端に勝つのは当然の事それでも彼には苦戦を強いられ下手をしていたら私がやられていた。
 そのような強敵を倒せる事に私の胸は弾んでいた。

 その為に猛スピードで接近してくる魔力を察知するのが大分遅れたのだ。

「──なっ!」

 気付いた時にはもう既に遅かった。
 しかし気付くのが遅れたのは無理もない、何故ならあまりにも魔力が強大すぎて逆に魔力を感知出来なかったのだ。

 そして私も気付かないうちにその魔力は私の前を通り過ぎて近くに着地する、その直後に私の武器達が少年にトドメを刺す為に降り注ぎ地面へと到達した。

 そこには本来なら私の武器が幾つも突き刺さっていたはずの少年が先程と同様動けないままの状態で壁に倒れ込んでいるだけだった。
 しかしそこに少年はおらず、ただ私の武器達が地面や壁に突き刺さっているだけだった。

 どこだ?
 少年を見失った私は辺りを見渡す。
 そして私は先程地面へと着地した魔力の方へ視線を逸らすとそこに少年はいた。

 先程の魔力の正体はたった1人の男、その男は少年を片手で抱えて立っていた。

 そこに立っていた人物を私は知っている。
 彼は……

「ディーオン……」

 彼を見た少年はそう言葉を放つ。

 そうだ、彼の名はディーオン。
 この都市パゼーレの騎士団大隊長にして凶震戒にて最も警戒するべき男。

「よくここまで頑張ったな……あとは任せな」

 そしてたった1人の援軍である。
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