やさしい異世界転移

みなと

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第2章 マジックフェスティバル

【61話】 負けず嫌い

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 空へと駆けるユートを見ていた。
 俺が放ったグロムインパクトに追われていながらも、楽しそうに空を飛んでいたのだ。
 そして彼はグロムインパクトの影響で出た暗雲に突っ込んで、しばらく姿を出さなかった。

 あの中でグロムインパクトをくらったのだろうか。……いや違う、ユートがそんな考えも無しに動く訳がない。

 そしてユートは暗雲から出てくる。
 ユートは俺の電撃に向かってゆみを構えていた。
 先程見せた弓、そして先程の魔力だけの矢とは違う灰色の矢。あれはまるで人器のよう、というよりあれは人器だ。
 
 ユートの人器は弓になる2対の刀だけでは無かったのだ。
 恐らく、あれがユートの切り札だ。

 ユートが矢を放つ。
 放たれたたった一本の人器、それで何をする気なのかと俺はユートから目を離せなくなっていた。

 ユートの放った矢と俺の電撃が交わる。
 その瞬間、俺のグロムインパクトがまるで内側から崩れるように消滅していく。

 優斗の放った魔滅神矢は、矢に己の魔力を込めて相手に放つ。
 その矢に射抜かれた者は矢に込められた優斗の魔力が体の内側に侵食し、内部より相手の体を切り裂くものだった。

 人に使用すれば死、よくても体の至る組織が破壊し尽くされて元の生活には戻れない、
 だからこそ、優斗はこの技を使えると知った時からこの技を封じる事にしたのだ。

 それはそれとして、デイの雷撃が優斗の矢によって完全に消滅する。その瞬間、衝撃が空を走り暗雲が晴れた。

 俺は落ちてくるユートを見ていた。
 地面に落ちてきたユートは放った矢をいつの間にか手元に戻して弓と矢を短剣に変えていた。

 グロムインパクトを撃った。もう魔力が少ない、だけどユートもあんな魔法を使ったんだ。魔力がもうないはずだ。

 だからこそ短剣での接近戦、受けてたってやる。俺は斧を握りしめる。

 数秒、ユートはその場で止まった後、灰色の短剣を投げつけてくる。
 恐らく撹乱の為だろうが、これを斧で弾き次のユートの行動に注意する。
 
 ユートはこちらの思った通り、俺に向かって突っ走ってくる。
 俺はユートを迎えうとうと、斧を構えてユートへと振り下ろす。

 さっきと同じような短剣と斧のぶつかり合いが行われ、再び人器同士がぶつかり合う音があたり一面に鳴り響く。

 だが、さっきと違うところが1つあった。
 後ろから何かが飛んでくる気配を感じ、すぐさま横へと避ける。
 俺のよこを通り過ぎていったのは、さっきユートが放った灰色の短剣だった。

 何故動く!?その短剣を見た瞬間、俺の中に動揺が生まれてしまいユートがその隙をつくように攻めてくる。

 どういう原理かわからないが、どうやらユートが灰色の短剣を放っていたのはどうやらこの為らしい。仕方ない、一旦後ろへ引いて体制を立て直……

 そう思い、後ろへ下がった時だった。
 突如として足元から風の魔力が溢れ出してきたのだ。

 これは間違いない、ユートのジフウだ!
 溢れ出してきた風の魔力が俺を包もうとする。しかし、いったいどのタイミングでこれを……そうか!

 ユートのやろう、俺のグロムインパクトを避ける為にこのグラウンドを駆け回っている時にこれを仕掛けていたのか!?
 
 だけど、残念!!

 俺がその対策をしていないとでも思ったか!!
 俺は魔力を体と包み込もうとするユートのジフウの間に纏って、勢いよく放出する。

 ユートのジフウは俺の魔力よって消滅する。これでユートの秘策、攻略!
 すまないなユート、俺は負けず嫌いなんだ一度見た魔法に引っかかる訳にはいかない。

「悪いな、その魔法さっき見た。」

 俺は勝利を確信し、爽やかな笑顔でユートに向かい言った。
 しかし、それでもユートは俺へと向かってくる。魔力がもう無いのか人器が出せなくなってしまい素手だというのに。

 それに対して俺にはまだ魔力が残されている。ユートが来た時にこの一撃で勝負を決めてやる。

 俺は拳に雷の魔力を纏い、ユートが来る瞬間カウンターを狙って打つ。

 この魔法、というか技は予選でユートに対して使用したものだった。
 雷の魔力で一時、腕の細胞を活性化させパンチのスピードと威力をあげるという魔法。

 名を「ライグロウ」
 ユートが目の前にまで迫って来た。俺はそのまま拳をユートに振り下ろす。
 ユートが俺へ攻撃するより速く、俺の拳がユートに届きそのまま勝負は決まるだろう。

 本来ならばの話である。

 ただ1つ、失敗があったのだとすれば、これを何度もユートに使ってしまった事だった。

 気がついた時には、ユートはデイの拳をギリギリで避けてユートの足はデイの目の前まで踏み込んでいた。

 そして一言。

「悪いな、それは何度も見た」

 俺のさっきの言葉の仕返しかのようにユートは笑った。
 拳は俺の目の前にまで迫ってくる。

 ……なんだよ、ユートの奴。

 俺よりも、負けず嫌いじゃないか。

 そう思ってデイは笑い、ユートの拳を顔面で受けて地面に倒れていったのだった。
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