やさしい異世界転移

みなと

文字の大きさ
上 下
60 / 98
第2章 マジックフェスティバル

【59話】 怪しい取引

しおりを挟む
俺は観客席から離れて、通路に来ていた。  
 もう第4試合は始まってる頃だろうか?
 俺はさっきのクラックの試合を見て待っていられなくなったのだ。
 
 少し落ち着かせないと、と思うが気分を抑え込もうとする気持ちよりも試合に対する興奮がそれを上回る。

 それにデイが本気で戦いたいと言ってくれた。それだけでもうワクワクしてくるんだ。

 友達と全力で戦えるなんて久しぶりだからな。
 
 久しぶり……?

 あれ?俺って友達とそんな全力で戦った事ってあったっけ?
 最後にそんな事をしたのはいつだっ……。

「あのー……少しいいかな?」

 当然、後ろから声をかけられてビックリしながら声の方へ振り返る。
 物凄く考え事をしていたからか、誰か来た事にすら気づかなかった。

「えっ……と、誰ですか?」

「あぁ、私はトハクという物です。実は貴方に頼みたい事があってきました。」

 俺に声をかけて来た人はトハクと名乗った。黒色のスーツのような服を着た黒髪を七三分けにした男だった。

 しかし、俺が注目したのはそこでは無く、トハクとなのった男の表情だった。
 カイシの、表情は一般的にいえば笑顔となる顔なのだが、その笑顔はどこか歪でまるで造られたかのような気味の悪い顔だった。

「あっはい、それで頼みって……?」

 たとえ胡散臭くても、話くらいは聞かきゃと思い要件を尋ねた。

「それがですね!実はこれ内緒なのですが私はマジックフェスティバルで誰が優勝するかという賭けをしておりまして……」

 賭け?そんな事って色々と大丈夫なのだろうか?……って内緒って言ってる時点でアウトな奴か。

「頼みたい事はたった1つ、それは……」

「貴方、決勝で負けてくれませんか?」

 はぁ!?
 えっとつまり、トハクが頼みたい事っていうのは俺に八百長をしろって事なのか?

「なんで俺がそんな事をしなきゃいけないんだ?」

 いきなりの頼みで少し不機嫌ながらも理由を尋ねる。

「いやぁ、実は私優勝をクラック、そして準優勝を貴方で賭けているんですよ!ですので貴方が優勝してしまうと、とても不味い事になってしまうんですよ」

 つまるところ、結局は自分が金欲しさの為って訳か。そんな事をさせて俺になんの得があるっていうんだ。

「もちろん、タダでとは言いません。もし私の賭けが成立する様ならば、貴方には1割をお譲り受けします!ですので……」

 トハクは俺の心を読んだかのように条件を提示してきた。1割か……賭けに勝ってどれだけの金額を貰えるかはわからないが、まぁ少しは貰えるようだ。

 まぁでも……

「遠慮します。俺はそんな事をしてまで金を貰いたくはないので」

 当然、俺は提案を拒否した。

「へっ……?」

 トハクは驚いた表情で固まってしまっている。だって、折角強い奴らと戦えるっていうのに手加減しろだなんて失礼にも程がある。
 それに俺だって優勝したいんだ。そんな他人の都合で捨てられるもんか。

『決まったぁ!!第4試合の勝者は~!!』

 ちょうどいいタイミングで第4試合が終了した。

「あっ、そろそろ試合が始まるので俺はこれで。じゃっ!」

 そう言い残してそそくさとトハクから離れてグラウンドへと向かった。

 さぁ遂に、デイとの真剣勝負だ!!

「ふざけやがって……あのガキィ!!」

 とり残されたトハクはそう呟く。

「俺を舐めた事、後悔させてやる。決勝で楽しみしてやがれ」

 そうしてトハクその場から去っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

祝☆聖女召喚!そして国が滅びました☆

ラララキヲ
ファンタジー
 魔物の被害に疲れた国は異世界の少女に救いを求めた。 『聖女召喚』  そして世界で始めてその召喚は成功する。呼び出された少女を見て呼び出した者たちは……  そして呼び出された聖女は考える。彼女には彼女の求めるものがあったのだ……── ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

ある日、近所の少年と異世界に飛ばされて保護者になりました。

トロ猫
ファンタジー
仕事をやめ、なんとなく稼ぎながら暮らしていた白川エマ(39)は、買い物帰りに偶然道端で出会った虐待された少年と共に異世界に飛ばされてしまう。 謎の光に囲まれ、目を開けたら周りは銀世界。 「え?ここどこ?」 コスプレ外国人に急に向けられた剣に戸惑うも一緒に飛ばされた少年を守ろうと走り出すと、ズボンが踝まで落ちてしまう。 ――え? どうして カクヨムにて先行しております。

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

処理中です...