やさしい異世界転移

みなと

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第2章 マジックフェスティバル

【39話】 夜の決闘 その3

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 月明かりが照らす中庭で、彼女は呼び出した相手を待っていた。
 来てくれるだろうか?と不安な気持ちがあったが、それもすぐに解消された。

「……俺を呼び出したのはお前か。」

 呼び出したユウトはちゃんと来てくれたのだ、あんな手紙をもらっても普通に。

「おや、ちゃんと来たんですわね。」

 いつも話すように、貴族みたいな感じで振る舞う。

「まぁ一応な。」

 彼は簡素な返事をとる。
 
「それより、このケットウジョウはなんなんだ?」

 そう言って彼は私の書いたケットウジョウを、取り出した。

「ただ私は決着をつけたいだけです。さぁ人器を取り出して戦ってくださいませ!!」

 半ば強引に戦闘を始める。
 ユウトは焦りながらも彼の人器である短剣を出して応戦する。

 たとえ彼があの時より強くなっていたとしてもまだ戦えるだろうと思った。

 しかしこの戦いの結果は……
 私の秒殺だった。

 気がついた時には私は地面に倒れ込んでいたのだ。

「大丈夫か?」

 彼は倒れている私に手を差し伸べた。
 私もその手を掴んで立ち上がった。

「それで?なんでこんな事したんだ?」

 彼はまたさっきと同じ質問をした。
 答えは言ったはず……いや、彼にはわかっているのだろう私が彼に戦いを挑んだ理由が他にもある事を。

「……私は貴族としてはまだ未熟です。
私の家系は代々、座学や実践訓練においてトップでした。
ですが私は試験の日あなたに負けてしまいました。
私はこの学園でトップを目指さなければいけない、でももうこの学園は潰れてしまう。
そう思ったら、あなたに戦いを挑まずにはいられなくて。」

 私は焦っていた。
 私を倒した彼、その彼よりも強いデイや魔力量が私より多いレイナ、そして彼は襲撃事件で更に強くなってしまった。

 それが悔しかったのだ。

「うーんわからないんだが。」

 私の主張を聞いた彼はそう言って難しそうな顔をしていた。
 まぁ私の悩みなんてわからないのだろう。

「お前はなんで先代がとってたからってトップを取ろうとしているんだ?」

 ……え?
 彼の口から出た言葉は私の理解を超える言葉だった。

「いや別にお前が自分の意思で決めたんなら文句はない、でもお前は自分の意思より先代の意思を尊重していないか?」

「それは……」

 私はその言葉に返す事が出来なかった。

「お前の家のことはよくわからないけど、お前はお前だ、先代の奴等じゃない。
俺が言えた義理じゃないけど、そんな考えは捨てて自分の好きに生きてもいいんじゃないか?」

 その言葉を聞いた時、なんだか少し気持ちが軽くなった。
 確かに彼の言う事も一理ある、少しは先代から学べることはあるだろう。
 でもそれだけで私は彼らにはなれない、私は私で彼らは彼ら違う人間だからだ。

「はぁ……あなたには勝てそうもありませんね。」

 彼の方を見て降参宣言をする。
 けれど負けたばかりではいられない。
 
「そういえばあなた、マジックフェスティバルに出る事を躊躇っていましたよね。」

 朝玄関でこっそりと聞いてた事を彼に言う。

「あ、あぁそうだけど……」

 さっきの私に対して発言したときと違い、彼は戸惑った感じで話す。

「あなた本当は参加したいんじゃないですの?」

 マジックフェスティバルの話題になると彼が見せていた表情、それは期待に満ち溢れていたものだった。

「そんな……事は……」

 ここにきて喋る勢いが落ちた、図星ですね。

「もしかしてあなた、他に参加したい人に気を遣って参加しないなんて考えているんじゃないんでしょうね。」

 私なりに彼を見ての印象があった。
 彼はやさしいのだ。だから参加を遠慮しようとしているし、私の言葉にビクリと反応した。
 このまま畳みかけましょう。

「まさか、私にあんな偉そうな事を言った本人が自分の意思を尊重しないだなんて、そんな事はあり得ませんよね?」

 さっき自分が言われた事を利用して彼を挑発した。
 反論はない。

「……こりゃ一本取られたな。あぁ参加するぜ俺は!マジックフェスティバルにな!!」

 彼は大会参加の宣言を私の前で声高らかにした。
 彼を大会に参加させても本来、私にメリットなどない。けれど見たいと思ったのだ。
 
 彼がもっと強いところを。

「そうと決まれば明日参加を申し込むか、確か締切が明日結構ギリギリだな。
ありがとなヴァーリン。」

 うっ……いきなりの感謝の言葉に心臓の鼓動が速くなった。

 平常心平常心

「ま、まぁ私がここまでやったのだから優勝は当然でよね?」

 彼をさらに煽った。
 その時ふといつも作っている貴族言葉ではなく、素の言葉で話してしまう。

「まぁ精進してみるよ。それと、俺はそっちの喋り方の方がいいと思うぜ。」

 微笑みながら私に提案をしてきた。

「なっ……」

 顔が熱くなるのを感じた。

「じゃあな!」

 彼はそう言い残してこの場を立ち去ろうとした。
 私は咄嗟に彼の服を掴んで引き留めた。

「まってください、少し聞きたいことがあるんです。」

 彼はその言葉を聞いて立ち去るのをやめる。

「どうしたんだ?」

 彼はやさしく聞いてくれている。
 顔が熱い、今にを火が出てきそうだ。
 だけどこれを今言わないとダメな気がしたんだ。
 勇気を振り絞って言葉をだす。
 
「よく、特定の人の事を考えると胸が熱くなるんです。セバスは魔法だと言うのですがそんな感じじゃないんです。
この感じあなたにはわかりますかユート。」

 こんな事ユートに言うのは間違っているのだが、この学園でこんなに気軽に話せる相手はおらず、ユートに聞くしかなかったのだ。

 ユートは私の事を聞いて少し悩んでいる顔をして。

「それは恋なんじゃないかな。」

 単純で最もしっくりくる解答をもらった。

 その後、自室に戻るまでの記憶が思い出せない。
 ユートからもらった恋という解答、つまり私は彼の事が好きなのではないか。
 そう思ったら恥ずかしくなくてはいられなかった。

 自室でぼっーとしていると扉が強く開いた。

「お嬢様!!こんな時間までどこにおられましたか!?セバスは心配で心配で!!」

 大声でセバスは私を叱ってきた。
 けれどその声は私の耳には右から左へと流れていく。

「セバス、私……恋してしまっていたんですわ」

その夜寮にセバスの絶叫が鳴り響いて、セバスは寮から出禁となった。
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