やさしい異世界転移

みなと

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第1章 転移!学園!そして……

【28話目】 ユウト 参戦

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 時は少し遡り、教室から少し離れた場所で2人の少女が言い合いをしていた。

「お願い、昨日の事でユートは悪くなかったってみんなに言って!!ユイン!!」

 レイナはユインに向かって必死になって頼み込んでいた。
 昨日の件でユウトが他の生徒達から批判を浴びせられるのが嫌だったのだ。

 しかし、自分から他の生徒に昨日のユウトの無実を説明しようとしても、他の生徒達はレイナがユウトから何かしらの脅迫を受けて仕方なくユウトの事を擁護しているのだと思い込んでおり、レイナの言う事を信じてくれなかったのだ。

 だからレイナはユウトの噂を流したユインに直接、自分の流した事は全て誤解だったという事をみんなに説明する為にユインを連れて誰もいない場所まで来たのだ。

「いやよ、そんな事したら私が嘘つき呼ばわりされるじゃない。」

 ユインは背を向けてレイナと顔を合わせずに冷たくレイナの要求を拒否した。

「どうして!!ユートはなにも悪い事はしていないのに、私を助けようどしただけなのに!!お願い!私に出来る事があるんだったらなんでもするから!!」

 ユインに拒否されたが、それでもレイナは諦めずに頼み続けた。
 昨日の事でユウトにあんなに酷い怪我を負わせた挙句、他の生徒達にも誤解されている事に責任を感じているのだ。

「はぁ……それだけ?それだけならもう教室に帰っていい?」

 レイナの必死の呼び声もユインには届かず、ユインはレイナの横を通り過ぎるように教室へ帰ろうとした。

「……あんなノルトの顔を見たら……今更嘘だって言えないじゃない……」

 ユインが小声でそう呟いた。
 その時レイナが見たユインの顔は唇を噛みなぜか辛そうな表情をしていた。
 レイナはユインの顔を見て話しかけようとした。
 しかしその時だった。

 地面が揺れ、地響きが鳴り響いた。
 張り詰めた空気が辺りいったいを一瞬にして覆った。

「おっ誰もいねぇと思ったらこんなところに女が2人いたぜ。」

 そこに立っていたのは自分たちの2回り程の巨漢の大男。
 男の背に担がれている巨大な戦鎚の片側には赤黒い液体が付いており、時折その液体が地面へと落ちていた。
 それはまるで、人の血液に見えた。

 その男から放たれいる魔力は悪意が満ちたれており、レイナとユインはその大男、血が滴り落ちていた戦鎚そして魔力に恐怖を覚え、体が固まる。

「他の生徒達も探さないとだが……まぁちょっとだけならいいだろ。」

 そう言って大男はレイナ達に近づく。
 学園に襲撃者が来た事を知らないレイナ達にはこの男が誰だかわからないが、それでも一目見ただけで危険な人物だと気付けていた。

 しかし体が上手く動かせない。
 逃げようとしても、体がいう事を聞かない。

「久々に可愛い女を犯せそうだ、良い声で鳴いてくれよ?」

 男は下衆びた顔で近づいてくる。
 逃げないと、これからこの男が自分達に何をするかなんて、察しのつく事だ。

 それでも2人は恐怖で体を動かせずに、その場で震えている事しか出来なかった。
 2人の体が動かせないまま、男はユインの前まで到達する。

 すると男は自分の戦鎚を振り上げた。

「やっぱり犯すんだったら手足を潰していた方が興奮するわ。動くんじゃねぇぞ、下手に動いたら手足以外も潰してしまうからな」

 男は下品に笑いながら戦鎚の狙いをユインに定めていた。

 レイナは見てる事しか出来なかった。
 レイナにはあの男と立ち向かう覚悟がない。
 それに自分が行っても何が出来るのだろう、酷い目に合わされるのがオチだろう。
 そんな考えが頭をよぎり、恐怖で見てる事しか出来ていなかったのだ。

 だが……だがしかし、彼ならどうするだろうか。
 あんな姿になっても、私を助けてくれた異世界から来たユートなら、この時どうするだろうか?

 その答えを私はわかる気がした。
 彼ならどんなに恐怖していても、きっと助けるのだろう、昨日私を助けてくれたように。

 私はユートに助けられたなら、今度は私が誰かを助けよう。
 気づけば震えが止まってレイナは魔性輪から人器を出してユインを助けに向かってた。

 振り下ろされる戦鎚、それがユインに当たる直前にレイナの氷の盾と男の戦鎚がぶつかり合った。

 今まで感じた事のない重量、気を抜いたら一瞬で潰される。
 この人器同士のぶつかり合いでレイナはそれをすぐさま悟った。

 しばらく人器同士がぶつかり合い、その勝者が決まる。
 この戦いの軍配が上がったのは、大男の方だった。
 レイナの力はまだか弱く、ぶつかり合いの衝撃に耐えきれずに後方へと飛ばされた。

 邪魔が無くなり男は再びユインに戦鎚をかまえる。

「お願い!!逃げてユイン!!」

 そう叫ぶレイナ、しかしユインの体は以前恐怖で動かないままだった。
 ユインに戦鎚が振り下ろされようとしている。

 間に合わない。

 レイナはユインからは少し離れた場所に飛ばされてレイナのスピードではユインを助けられない。

 嫌だ、そんなの嫌だ。
 目の前で"友達"が酷い目に遭わされそうになっているのに、自分はなにも出来ない。
 ただただ自分の無力さが恨めしかった。

 お願い、誰かユインを助けて……

『死んでも……君を守るよ。』

 突如としてレイナの脳内に流れた声。
 それは昨日の彼の言葉だった。

 ダメ……彼はもう充分酷い目にあった、だからこれ以上は……

 そう思っていたレイナだが、その口は自然と開き。

「助けて!!ユート!!!!」

 そうレイナが叫んだ瞬間だった。

 突風が吹き荒れる。
 その突風はレイナのすぐ横を通り抜けていき、次の瞬間にはその突風は大男の懐まで到達して大男を後ろの方に吹き飛ばしていた。

 そしてその突風の正体は。
 ユウト・シンドウ、レイナが信じていた人物だった。

 ユウトはレイナ達に背を向けて、大男が飛んで砂煙が上がっている場所を見ていた。

「レイナ、ユインを連れて講堂まで行ってくれ。みんなそこにいる。」

 ユウトはレイナ達に背を向けながら、講堂へ行くように言った。
 まるで、自分が講堂へ行かないような言い方だった。

「ユウトは……どうするの?」

 ユウトのその後ろ姿とその言葉を聞いたレイナはユインの方へ近づきながら聞いた。

「まぁなんだ少しアイツの相手をしてやるだけだ」

 ユウトは後ろを振り返る事なく、レイナの問いかけに応える。
 確かにあの大男がいる場所は砂煙で覆われていて本当に倒れたかわからない様子だった。
 けれども、ユウトは知っているのだ。
 あれであの大男が倒せなかったことに。

 出来ることなら一緒にいて共に戦いたい。
 そう思うレイナだが、本人もわかっている。
 自分がいたところでユウトの足を引っ張るだけだと、大人しくここで退いておいた方がユウトの為になるのだと。

 悔しい気持ちを抑え、レイナはユインを支える為、ユインの肩を抱えて講堂へと行こうとする。
 ここでユウトに何か言ったら自分の覚悟揺らいでしまう、その前に講堂へと向かおうとした。

「なんで……」

 レイナに抱えられているユインがそう呟く。

「なんで……私を助けたの!?あんた達は私の事嫌いなはずでしょ!?
私はあんた達にあんなに酷い事をしたのよ!!あんたが私を助ける義理なんて……」

 ユインが叫ぶ。
 それは彼女が抱いた罪悪感によるもの、彼女がユウト達にした事は恨まれても仕方のない事だった。
 けれど、この2人はそんな自分を助けてくれている、その事に更に罪悪感を感じていた。

「なんでってそりゃ……」

 ユインの叫びに今まで背を向けていたユウトが振り返ろうとする。

「嫌いな奴だからって人を見殺しにしても良いって理由にはならないからだ」

 振り返った、ユウトはユインに目を合わせてそう答えたのだ。
 それを聞いた途端ユインの体から力が抜け、さっきまでの張り詰めていた空気からやっと解放された様だ。

「それじゃあ頼んだ、レイナ」

 そう一言、ユウトはレイナに話す。
 レイナはその言葉に首を縦に振って講堂の方へユインを連れて歩いて行った。

「いやぁ青春だねぇ」

 レイナ達が去った後、砂煙の中から声が聞こえてきた。
 そして砂煙が晴れて、大男が姿を現す。

「ずいぶんと待ってくれたみたいだな」

 ユウトはその大男に向かって挑発する様な口調でいう。

「さっきの蹴り良かったぜ、その蹴りに免じてやっただけだ。それにお前をぶっ殺した後でやれば良いだけの話だからなぁ」

 大男は笑顔で物騒な事を軽々しく言った。
 やっぱりコイツは危険だ……ここでなんとかしないと。
 その考えがユウトの脳内に浮かぶ。

「冥途の土産だ、名乗ってやるよ。
俺の名は岩岩団の頭領ドン・ドサイだ、小僧お前は?」

 大男が名乗りを上げる。
 頭領と名乗ってこんなところにいるのだから恐らくコイツが今回の襲撃の主犯格なのだろう。
 なら、俺のすべきは……

「パゼーレ魔法学園1年、ユウト・シンドウだ」

 ドン・ドサイに続いて俺も名乗りを上げる。

 俺がすべき事……

 さっきこの男に放った蹴りは最大の魔力を集めた足で地面を蹴り、その後すぐに魔力を別の足に集めて放った蹴りだった。
 いうなら、俺にとっての最大の攻撃だった。

 それを喰らったのにも関わらず、この男はピンピンと動いている。
 つまり俺はこの男には勝てないってことになる。

 だったら俺のすべきはたった一つ、恐らくこの事は学園の外にも伝わって助けが来るはずだ。

 俺はその助けが来るまでの間コイツを足止めする、それが最適解だ。

 俺は魔性輪から人器を取り出して、ドサイと一騎討ちを始めるのだった。
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