やさしい異世界転移

みなと

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第1章 転移!学園!そして……

【23話】 暴走

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「はぁ、次の実技、中庭でやるとかめんどいな。」

 欠伸を気だるそうに言った。
 次の実技の授業は中庭という連絡があり、俺とデイは授業へ向かう為、中庭へと続く廊下を歩いていた。

「そうか?俺は体を動かせる実技は好きだぞ。」

 俺の隣を歩いているデイがそう言った。

「まぁ実技はいいんだけどさ、中庭まで行くのがな。」

 別に実技自体には特に不満はない、むしろ元いた世界よりも体が動かせる為、少し楽しいと思うのだが、わざわざ外まで行く事の方が不満に思う。

 まぁ実技は、生徒同士で手合わせする事もある為、外の中庭か入学試験の戦闘試験の時に使った部屋で行うのだが、今日は2年生が使っているから1年生は中庭で実技を行う事になった。

 そんな事情があってもやっぱ面倒くさいな。

「はぁー。」

 俺はため息を吐いた。

「─────!───────!!」

 何を言っているのかわからない大きな声が廊下中に響いた。
 煩く感じた俺達は耳を軽く手で塞いだ。

「本ッッ当、この放送うるさいよな。」

 塞いでいた手を離して、俺はデイの方を向き、不満げに言った。

「まぁ、これについては同感だな。仕方ないとはいえ、他に何かないのか?」

 デイも流石にこれには不満のようで、少し機嫌の悪そうな顔をしてそう言った。

 これはルコードの魔法で、この魔法学園においては校内放送みたいなもので、特定の生徒の呼び出しや授業の連絡に使われている。

 ルコードの魔法は、入学式の時に俺達にした喋った事を相手に強制させるものともう一つあり、それは自分の声を特定の相手だけに聞かせるものだ。

 さっきの校内放送は後半の特定の相手に自分の声を聞かせるもので、ルコードはこれにより、学園の特定の生徒に呼び出したりしている……そうだ。
 俺も聞いた話なので確定の話ではないが。

 まぁ、特定でない生徒にとってはさっきの様に大声は聞こえるが、何を言っているのかわからない様になっているみたいだ。

「そろそろ授業始まる、早く行こうぜ。」

 そう言い俺達は中庭へと向かって実技の授業を受けた。

 今回の実技の授業は、2人1組になって1対1の勝負を10回行って勝率を競う授業だそうだ。

 俺はデイと組んで10回勝負を行った。
 結果は……

 互角の接近戦での攻防が繰り広げられる。
 俺はデイが突き出す拳を見切り回避しようとするが……

 デイの拳が突如として早くなり俺の回避は間に合わず顔面にくらってしまう。

 多分雷の魔力で自身の肉体を活性化させ動きを速くしたのだろう。

 俺は体制を崩し、地面に倒れ込む。
 立ち上がろうとするが、デイは俺の目の前に戦斧に寸止めをし、勝ち誇った顔で。

「これで俺の6勝4敗で俺の勝ちだな。」

 今回は4勝6敗で俺の負けだ。
 やっぱりデイには勝ち越せないな、魔法による戦力差は厳しいか。
 俺も魔法が使えたらな、なんて考える。

 そして授業終了のチャイムが鳴る。

「よーし、今日はここまでだ。……少し荒れたな。」

 ルコードが前に出て授業終了と告げた。
 実技授業の影響か、中庭はボコボコに荒れていた。


「うーん、そうだな。そこの5人、授業の後少し残って後片付けしておいてくれ。」

 ルコードは俺達の方に指を指して言った。
 指名されたのは俺の近くにいたデイ、レイナにユインとその取り巻きの女子の5人だ。

 他の生徒達は颯爽と中庭から離れて教室へと帰って行き、いつのまにかルコードも中庭から姿を消していた。

 仕方がないので俺達で後片付けを始めた。

 俺とデイで一緒の場所を片付ける。
 後ろで女子3人の話し声が聞こえる、話の内容とかはわからないが、3人は仲でも良いのだろうか?

 そう思いながらも片付けを進めて行った。
 そんな中、後ろの女子達の声が大きくなっているのに気が付く。
 ちゃんと片付けしているだろうか、そう心配して後ろを振り返りちゃんとやっているか聞いてみる。

「おい、ちゃんと片付けしてるか?」

 振り返りそう言った瞬間、俺が見たものは。

 レイナとユインが物凄い勢いで言い合いをしているところだった。
 ユインの顔はどういう訳か怒っている様に見え、その手には短刀を持ってレイナに突きつけていた。

 どういった理由でこんな事になっているかわからないが、ユインと共にいた女子は止める様子がない、俺達が止めねば。

 デイもそう思ったのか俺達は言い合いを止めようと女子達の元へ行こうとした時だった。

「お、おい何やっ……」

 グサッッ!

 ユインがレイナに襲い掛かって、そのままユインの短刀がレイナの腹部に突き刺さった。

 その光景を見た瞬間、何が起こっているのかわからない感情と腹の底から怒りの感情が溢れ出た気がした。

「おい!!なにやってんだおまえら!!」

 一瞬、怒りで我を忘れて気付いた時には俺は怒号を発していた。

 その声に驚き、ユイン達はレイナに短刀を引き抜きながら離れていった。
 レイナの刺されていた腹部からは赤い液体が下の方へと滴り落ちているのが見えた。

「レイナ──大丈……」

 そうレイナに近づき声を掛けようとした時。

「あ……あぁ……やっぱり私には……」

 レイナの体は震え、その目からは水滴が頬を伝って落ちていくと思いきやその涙はレイナの頬で凍りつく。

 そして、レイナまで後少しという所でレイナの周りには多くの魔力が集まっていき……

 レイナを中心に白い半透明の壁が現れ、俺達から離すようにレイナの周りを覆っていった。

「なっ……!」

 壁が現れた事に驚き、俺は一瞬足を止める。

 次の瞬間、猛吹雪が吹き荒れ俺達を襲った。
 猛吹雪に襲われた俺は、あまりの風の強さに足が浮き始め、吹き飛ばされた。

 俺は吹き飛ばされているなか、周りの様子を見る。
 他の3人もこの猛吹雪に吹き飛ばされて宙に浮いていた。

 デイ、ユインは意識があって、着地に関しては問題無さそうだったが、ユインの取り巻きの女子だけは意識を失っている様で着地が出来る状態ではなかった。

 俺は咄嗟にその女子の助けに入りに行った。
 吹き荒れる風に対して、魔力を両手に集中させてその女子の元へ滑空して行った。

 その女子のところまでたどり着いた俺は女子に覆い被さるように抱きかかえて、守る姿勢をとった。

 ゴンッ!

 背中に強い衝撃がはしり地面に落ちる。
 どうやら後ろにあった柱に背中をぶつかり、そのまま地面に落ちたようだ。

 落ちた時に、俺は抱えていた女子を離してしまう。
 すぐに俺は女子の安否を確認する。

 どうやら気絶しているだけで、これといった外傷はなく、ひとまず安心する。
 身をもって守った甲斐があった。

 女子の安否を確認した俺は周りの状況を確認する。
 俺は中庭に続く渡り廊下に飛ばされていて、近くにはデイとユインの姿も確認出来た。

 2人も大丈夫そうで安心するが、それよりも大きな問題が残っていた。

 それは中庭に現れた巨大な吹雪だ。
 台風のような風の動きに更に雪が加わったようなそれは、動く事のなく中庭で吹き続けていた。

 恐らくレイナはこの猛吹雪の中にいるのだろうけど、いまいち俺はこの状況を理解しきれずにいた。

「これは……まさか……」

 デイがこの吹雪を見てそう呟いた。
 その顔は暗く、絶望しているようだった。
 俺はデイに近づく。

「おい、どうなってるんだ。教えてくれ……デイ。」

 デイの肩を掴み俺はデイに聞いた。
 俺の声に振り返ったデイの顔を見て何が起こったのか薄々感付いてしまう。

「あれは……魔力の暴走だ。レイナは魔力が高くて、暴走してもおかしくなかった……それが今、暴走し出したんだ。」

 デイはそう言い、顔を下に向けた。

 あれが……暴走?
 確かにあの猛吹雪には物凄い魔力が感じられ、入ったらあっという間に凍え死にそうだった。

 だけど、あんなに魔力を出していて大丈夫なのか?
 確かにレイナの魔力量は凄まじい、けれどあんな高魔力を出し続けてレイナは平気なのか?

「ああなった魔法使いは……自分の魔力が尽きるまで暴走し続ける。」

 顔を下げながらデイは言う。

 "自分の魔力が尽きるまで"

 それじゃあ魔力が尽きた後はどうなるんだ。
 今まで考えた事がなかった、魔力が尽きるなんて異世界に来てからなかったからだ。

「おい……じゃあ魔力が尽きたら……どうなるんだよ……」

 俺はそうデイに聞いてしまう。
 デイの顔を見ただけで大体は察してしまう。
 しかし、そんな事を信じたくはないと思う俺の心がその言葉を出していた。

「このまま暴走し続けて魔力が尽きたら……レイナは……死ぬ。」

 デイはそうハッキリと言った。

 レイナが死ぬ……?
 その事実が俺に突きつけられる。

 なんとか……なんとかしてレイナを……

「あはははははははは」

 甲高い笑い声が響き渡った。
 その笑い声で思考が止まり、俺とデイはその声の方を見る。

 その笑い声の主はユインだった。
 ユインは立ち膝で目を見開きながら笑っていた。
 訳がわからず俺達はユインを見ながら呆然としていた。

「アイツが悪いのよ!
 アイツが色目を使って、ノルトを誘惑したのよ!!
 こうなって当然なのよ、あんな化け物!!」

 ユインはそう喚いている。

 あぁそうか、そういう理由か……

 俺はゆっくりとユインへと歩いて行った。

「おい……ユート何を……?」

 そう後ろから聞こえるデイの声、俺はそのままユインに近づく。
 ユインの目の前に立つと、俺はユインの胸ぐらを掴んで立たせた。

「な、なにするのよ!」

 そう怒鳴り俺の手から離れようとするユインを無視し、俺は拳を握って振り上げる。

「いい加減にしろ……お前……」

 振り上げた拳をユインの顔目掛けて振り下ろす。

「この……バカ野郎!!」

 俺はユインの顔をぶん殴った。
 ユインはそのまま地面に倒れて気絶した。

「えぇぇぇ!!ユート、お前……なにやってんだ!」

 俺の行動に後ろにいたデイは驚き、俺に声を上げた。

「……デイ、この2人を医務室まで連れていってくれ。」

 俺はデイが言った事をひとまず無視し、女子2人を安全な医務室へ連れて行ってくれるように言った。

「えっ?それはいいが、お前は……どうするんだよ。」

 デイは俺の頼みをきいてくれるようだ。
 どうする……そんなデイの問いに対する答えはもう既に決まっている。
 俺は猛吹雪の方に体を向け、猛吹雪を見た。

「俺は……レイナを助けに行く!」
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