やさしい異世界転移

みなと

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第1章 転移!学園!そして……

【15話】 試験終了

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 戦闘開始の宣言がされ、先に仕掛けたのはヴァーリンだった。

 始まった瞬間、ヴァーリンは真っ先に後ろの壁の近くまで下がって俺との距離を離してヴァーリンの人器である杖を俺へと向けた。

「アクアバレット!」

 そうヴァーリンが唱えた瞬間、ヴァーリンの持っている杖からは水の大きな塊が俺に向かって発射された。

 俺は咄嗟にさっきの戦闘と同じ様に、人器の大剣を床に突き立てて守りの体制をする。
 だが、大剣で水の塊を防ごうとするも、威力が思った以上にあってガードした反動で後ろに押され始める。

 ヴァーリンが壁の近くまで下がったのは恐らく、彼女が遠距離攻撃を得意とする魔法使いであり、相手から距離を離して戦うのがセオリーなんだと思う。

 しかし、明らかにさっきのザーコオの魔法よりも威力は高く、ヴァーリンは豪雨のような激しく水を打ちつけてくる。

 なんとかしてこの状況を打開しなければ。
 だが、剣に当たっている威力的に、この水に当たったら恐らくただでは済まないだろう。

 ヴァーリンの元へ行けないならどうするかだが、こうするのだ。
 俺は大剣を持ちヴァーリンの正面に立ってそして左足を前に力強く踏み込みそして!

「ッッッオラァァァァ!!」

 俺は大剣を思いっきりヴァーリンに向かってぶん投げた!
 どうせ重たくて動き難く遠距離で攻撃を当てられないのなら、使えない大剣を投げて当てればいいのだ。

「なっ!?」

 ヴァーリンは優斗の行動に驚いた。
 さっきまで俺の攻撃を防いでいた大剣をいきなりこちらへ投げて守りを捨てたのだ。

 ヴァーリンは慌てて攻撃をやめ回避に専念しなんとか回避する事には成功する。

 しかしヴァーリンが正面を向いた時、彼女は驚愕する事なるだろう。

 なぜならヴァーリンの目の前には優斗がいたからだ。

 そう、さっき大剣を投げた理由はヴァーリンに対する攻撃ではなく、彼女の意識を大剣に向けて、ヴァーリンに接近する事だったのだ。

 俺は大剣をヴァーリンに投げてそのすぐ、ヴァーリンが大剣に気を取られて避けている最中にヴァーリンが避けてくるところを予想して俺はそこへ駆け出して待ち伏せしていたのだ。
 ディーオンとの特訓の最終日に偶然やった事が今になって役にたった。

「このっ……!!」

 再び杖を構えて攻撃をしようとするがここまで接近すれば俺の間合いだ。
 俺はヴァーリンの手に裏拳をかました。

 威力としてはそこまで無いが、素早い動きといきなり攻撃に驚いた、ヴァーリンは持っていた杖を手から離してしまった。

「そんな……嘘でしょ!?」

 杖が手から離れたのを認識したヴァーリンは驚いたが、すぐに体勢を立て直し、俺との距離を取ろうと後ろへと飛んだ。

 のだが!

 ゴツンッ!

 ヴァーリンは忘れていたのだ、自分が遠距離攻撃型の為、俺から距離を少しでも取ろうとして壁の近くまで下がっていた事に。

 前にいた俺だけに気を取られてしまったヴァーリンは後方を確認せずに後ろに飛んだ事により壁に背中をぶつけ逃げ場がなくなっていたのだ。

 これはチャンスだ!
 そう思った俺は、更に足を踏み込んでヴァーリンとの距離を詰める。

 俺は右手を握り締めて威嚇の為、魔力を集めて殴り込んでヴァーリンの顔に寸止めをしようとする。

 拳がヴァーリンに近づく。
 その瞬間思い出す、さっきの戦いの結末を。
 俺はザーコオに寸止めをしようとして加減が効かずに失敗した事に。

 俺のバカ野郎!
 さっきの失敗を忘れてまた同じ失敗をしようとしていた。
 恐らく、今回も寸止めは失敗するだろう。
 なら俺がすべき事は、右手を止める事よりも手が当たる位置をズラす事だ。
 右手をヴァーリンへ進めると共に手を徐々に右へとズラしていく。

 少し投げやり気味になってしまい、俺はその時に目を瞑ってしまう。

 ドンッッ!!

 何かに手がぶつかった。
 音的に人にはぶつかってはいない気がした。
 魔力で手を覆っている為か壁に当たっていても痛みはなかった。

 俺はゆっくりと目を開ける。

 目を開けて真っ先に目に入ってきたのはヴァーリンの間近に迫った顔だった。
 俺とヴァーリンとの距離はギリギリ触れるかどうか位の近い距離だった。
 ヴァーリンは何が起こっているのかわからいようで顔を赤くしていた。
 そのままの体制で沈黙の時間が過ぎていきヴァーリンの目が潤っていっていったを

「えっ?わ、私がま、負けーー負け?そ、そんなーーそんなーーーー」

 気付いた時にはヴァーリンは顔を真っ赤にして目から多くの涙が溢れさせて泣いていた。

 ヴァーリンのその言葉は最初の偉そうな言葉遣いとは違って、言葉と表情からはなんだか普通の女の子って感じがした。

 って、そんな事考えている場合じゃない!
 そう思ったがどう話しかければいいかわからず俺はその場であたふたしているだけだった。

「お嬢様ぁぁぁ!!」

 突然、後ろから大声が聞こえたかと思って後ろを振り返ろうとした瞬間だった。
 横腹に強い衝撃を受け、横方向に思いっきり吹っ飛ばされて壁に思いっきりはぶつかり、床に倒れる。

 壁にぶつかった事で体全体に痛みが走ったがゆっくりと立ち上がって俺が吹き飛ばされた原因を見た。
 そこで見えたのはヴァーリンの執事が泣いているヴァーリンに近づいている所だった。

「セバス。わ、私負けちゃっーー」

 ヴァーリンは泣きながらセバスに言ってる。

「大丈夫ですぞ、お嬢様。今日ただは調子が悪かっただけですぞ。もう帰りましょう、さっ私の背に乗ってください。」

 そう言って、その執事は泣いているヴァーリンを背中に背負い、物凄い速さで部屋から出て行った。
 そして部屋から出た執事が、そのまま試験会場から立ち去ろうとした時だった。

「待って!セバス!」

 執事の背中に乗っていたヴァーリンがいきなり執事に立ち止まるように命じた。
 その言葉に従うように執事は立ち止まりヴァーリンの方に目を向けた。

「セバス、私を降ろしてもらえませんか?」

 ヴァーリンの口調はさっきまでの普通の女の子からまたおかしなお嬢様口調に戻っていた。
 執事は戸惑いながらもゆっくりとヴァーリンを自分の背中から降ろした。

 執事の背中から降ろされたヴァーリンは、袖で目を擦って涙を拭いて、足をレイナの方に向けてまっすぐ近づく。
 近づいてくるヴァーリンを見てレイナは先程の事を思い出したのか、少し足を後ろに引き下がろうとする。

 しかし、すぐにヴァーリンが距離を詰めて逃げなくさせない様にした。

 そしてヴァーリンの口が開く。

「先程の無礼をお詫びいたします。
大変申し訳ございませんでした」

 そう言ってヴァーリンは頭を下げた。
 いきなりのレイナに対しての謝罪にレイナや周りにいた人達の動きが一斉に固まった。

 さっきまでの偉そうな態度とは打って変わり礼儀正しい態度に全員驚いたのだ。

「そ、そんな私なんかに頭を下げないでください。」

 自分より立場が上な貴族のヴァーリンが自分に頭を下げて謝罪したという事実にレイナは困惑しながら頭を上げるように言った。

 しかし、そのレイナの言葉を無視して、ヴァーリンはレイナに対して頭を下げ続けていた。
 しばらくしてヴァーリンは頭を上げ、レイナに指を指した。

「別に、勘違いしないでくださらないで?
 私は、ただ約束は守ると決めているのです。
 だからこれは彼との約束は守っただけですことよ」

 どうやらヴァーリンは俺との約束を忘れておらず、自分が負けた事を認めてレイナに謝罪したのだ。
 謝罪が一通り終わってヴァーリンの指はレイナからまだ部屋の中にいる俺に窓越しに向けていた。

「ユウトと言いましたね貴方。
今日は負けましたが、次に学園で会ったその時は、覚えていなさい!
さ、帰りますわよセバス。」

 ヴァーリンはそう言い残して執事を連れて余裕そうな顔をしながら試験会場から去って行った。
 あまりの出来事で周りの人達は何が起こったかわからずに全員ポカーンとなっていた。

 そんな状況の中、俺は部屋の中から出た。

 俺が出てきたのを見てレイナが俺に近づいてきた。

「その、ユート。ごめんね?」

 俺に近づいてきたレイナがいきなり謝ってくる。
 恐らくヴァーリン関係だろう。
 自分のせいでこんな事になってしまったのを申し訳ないと思ったのだろう。

 だが、これは俺がヴァーリンの態度が気に入らなかったからやった事だ、レイナは悪くはない。

「いいや、大丈夫だよ。ただ俺が勝手にやっただけだから。」

 レイナに心配かけないように言った。

 その言葉を聞いたレイナは何かを話したがっているような表情をしたが、すぐに表情を戻し、話そうとするのをやめた。

 ここで何を話そうとしたかを聞くのは流石にレイナに失礼だと思い、追求をしなかった。

 それにしてはさっきのヴァーリンか言っていた『学園で会った時は』か、まだ合格も決まっていないのに気がはやいだろ。
 そう思いながら俺達はヴァーリン達が去って行った方を見ていた。

 色々とあったが、これで試験は終了。
 あとは結果を待つだけだ。
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