やさしい異世界転移

第1章 転移！学園！そして……

【0話】 プロローグ

　ねずみ色の雲に覆われる暗い空の下。

　無数にそびえ立つ岩山のその上で1人の男が立っていた。
　色素が抜け落ちたような白髪、右腕がないのか羽織っている黒いコートが風でなびく。

　その男は、岩山から下を見つめる。

「──ユウト！」

　男の耳に付けている無線機から女性が男の名を呼びかけユウトと呼ばれた男は岩山の下を見ながらその声に耳を傾けた。

「もうじき、武装集団がこの辺りを通ります。
奴らがこの先の都市に入り暴れ回る前に全員捕まえてください。」

　いつものように聞こえくる声

　彼女はナビゲーターみたいな人なのだ。
　彼女は今のように任務についてのアシストをしてくれている、とても頼もしい人だ。

「あーはいはい。わかった。」

　適当な返事を返す。

「それでは、無事を祈ります！英雄・ユート。」

　そう言い残して彼女は通信を切った。

「英雄……か」

　自分がそう呼ばれてはいる事に彼はあまりいい気分はしていなかった。
　けれどそれ仕方のない事なのだ。

　だってそうなるしか無かったのだからだ。

　そんな事を考えていると遠方から多数の光がこっちへ向かってくるのが見えた。
　どうやら討伐対象の武装集団が来たようだ。
　
「はぁ、あんまり戦いたくはないけど……仕方ないか」

　深くため息をひとつ吐き、男は岩山から下へと飛び降りたのだ。

　地面に衝突する寸前で魔法で衝撃を抑え着地をして、車の進行を防ぐように前へと出る。
　目の前にいきなり人陰が現れた為か車が止まり、屈強な男達が車から出てくる。

「なんだぁてめぇ？死にてえのかてめぇ！？」

　剣やら棍棒などといった武器を俺に向け威圧してくる。
　無駄だとは思うのだが、一応忠告はしておこう。

「俺は騎士団の者だ。お前達を捕まえに来た。大人しく投降しろ。」

　降伏する様に促した。
　結果は当然だが、無数の笑い声と数々の侮辱の声だった。

「たった1人で俺達を捕まえる？こりゃ傑作だぜ。」

　しばらく下品な笑い声達が当たり一面に広がっていると空を覆う雲が晴れていき、月明かりが男を照らした。

　目の前の男を見た集団の1人の顔が青ざめていき震え声で男を指差して言った。

「嘘……だろ！？あ、あいつ！もしかして！？」

「死んだような黒い目、白髪の右腕の無い隻腕の男……こ、こいつ！パゼーレの"英雄"ユウトだ！！」

　その男の声を聞き、周りの奴らが明らかに動揺し始める。

「うろたえてんじゃねぇ！！」

　集団が動揺しうろたえていた時、後ろの方から野太い声を出して大男が出てくる。
　この大男は恐らくコイツらのリーダーだろう。

「パゼーレの英雄だぁ？そんな事言っても相手は1人だろ？それに片腕がねぇ！
なに、大勢で攻めれば怖くねぇ！！全員であいつを殺すぞ！！」

　カリスマ性でもあるのかリーダーの声に動揺していた男達が落ち着きを取り戻し、奮起し叫び声をあげ始め。
　そして集団が俺に向かって叫びながら走り出す。

　結局は戦闘になった。

　人は殺したくはないだから面倒ではあるが手加減をしなければ。

「はぁ……結局こうなるのか」

　ため息を吐く。

　俺に突撃してくる男達を迎え撃つように攻撃を開始する。

　気がつけば俺に向かってきた連中は全員そこら辺に倒れていた。予想はしていたがそこまで苦戦するような相手では無かった。

　さてと、仕事も終わった事だから帰って報告でもしておこう。どうせすぐに他の騎士団が来てこいつらは捕まるだろう。

　これが今の俺にとっての日常、この日常は多分俺が死ぬまで変わらない。

　それは仕方ない　仕方がないのだ。
　俺がそう望んでしまったから。
　後悔はある　しかし悔いはない　そうしてよかったと思っている。
　俺がそうしたから今のこの世界がある。


──何も守れなかった神に問う、存在価値を
　　──夢を諦めた人に問う、人生の意味を
　　　──全てを捨てた俺に問う
　俺が人生の……その正解を……


　これから始まる物語は異世界に転移した俺の物語。
　出会い　別れを繰り返して。
　様々な後悔を重ねながら神からの祝福のろいを受けて英・雄・にされてしまうけど、最後には誰かに希望を託す神洞しんどう　優斗ゆうとの物語だ。