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3日目
コスチュームプレイ
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昨日は裸が露わになるまでの過程を、焦ったさも楽しみながら鑑賞するものだったが、今日はその逆とも言えた。
鐘久からは見えない場所に置かれた箱の中から、次々と装飾品や用途不明の道具が出てきては丁寧に鐘久に身に付けさせる。
黒い獣風の耳がついたカチューシャ、赤いエナメルの首輪に鈴と小さなマイクのついたもの、レースの手袋。
たまにロープやフック、ボールなどよくわからないものも混じっているが、それは身に付けずに台のそばに並べられていく。鐘久はその間何もせずに指示されたポーズで座らされていた。
「――!――は…………した!」
小さく外の司会の声がスピーカーから伝えられる。どういう進行でどんな紹介をされているのかはまだ不明だ。しばらく流し見ていると横から声がかかった。
「気になるか?」
荒い男が鐘久の尻を正面からは見えない角度で揉みながら、丁寧な男から受け渡される装飾品ではないもの―つまりロープやボールなどの「ハズレの品」――を台の横に置く役をこなしている。
基本的には丁寧な男が司会と連携してケース内の進行を務めているようで、荒い男も司会の言葉はインカムで聞いてはいるが大した指示は来てないようだ。
「……別に」
着々と猫のような格好にされて猫のような可愛らしいポーズを要求されていれば大体は察しがつく。昨日の服に比べてより特殊性が増してはいるが、鐘久にとってそれは昨日と大差ないことだった。
恥ずかしさよりもどうとでもなれという気持ちが強いためそっぽを向いてそのポーズを取る姿はまさしくすました猫だ。
天然なのか意図的なのか、鐘久の行動は男たちにとってとても「上出来」だった。
「――は、こ――……!」
一際大きな歓声が沸いて拍手する客たちが見える。丁寧な男が次に取り出したのは、円になった金具と細いチューブ。鐘久が初めて見る道具だった。
「なんだ……?それ」
手のひらに収まるくらいの大きさで、太い金属の棒がぐるっと3重ほど円を描いている。その先端には小さな穴とそこにぎりぎり通る太さのチューブが刺さっている。
「貞操帯と言います。ご存知ですか?」
「……他の男に女を取られないように婦人につけたやつか?」
「その通りです。当時も他者が性欲を管理すると言う点では躾の意味も込めて使われていたもので、現在でも一種のプレイに使われています」
「性欲の管理……?」
「付ければわかりますよ」
なんとなく嫌な予感がする。昨日も確か自分の意思に関わらず何度もいかされたことを思い出して体が震えた。
失礼しますね~、と昨日と同じく正面に屈んで服の裾を捲った。一瞬及び腰になるもいつの間にか後ろには荒い男が控えている。
「嫌って言えれば俺があんちゃんを動かしてつけてやるから安心しな」
ニヤニヤと笑う荒い男はどかっと座ると、すぐに腕や足を掴める姿勢をとった。掴んでこないところを見ると、今日はあえて鐘久が自ら施しを受けるように見せたいようだ。
「では足を開いてお客様に今の状態をしっかりお見せください」
「……っ」
数秒迷った挙句鐘久は黙って股を広げた。力技で男にやらされるよりは体力の消耗がない。スースーとした空気を感じながら、俯いてフラッシュで騒がしい観客の反応を見ないようにする。
代わりに自分の股間のものが視界に入った。一度ガチガチになっていた昨日のそれと比べると今日はまだ落ち着いており、陰毛の下で小さく丸く収まっている。
「ウーン、可愛らしいですねぇ」
「…………」
「昨日のペニスもそそり立つ勇ましさと格好の可愛さが良いギャップになっていて大反響だったのですが、どちらも人気が出そうな形ですね」
根本の袋に優しく触れて形状を確かめる丁寧な男に、鐘久は嫌悪した。
「ち◯こに形の良いも悪いもあるもんか」
「ありますよ~!色や皺、皮の状態……人によって様々ですから。色白で肌荒れもない、性経験もない鐘久様の性器はとても愛らしい」
「きっもちわる……」
鐘久はうげぇ、と顔を歪ませた。
「こなしてきたショー次第でこれからのショーの内容も変わってきますから、しっかり見せつけてやってくださいね」
そういうと、手に持った金具を漸く鐘久のモノにぐいっと押し付けた。モノがすっぽりと金具に収まると、根元についた錠前にかちゃりと鍵をかける。
何度か揺らして金具が外れないことを確認した男は、そばに寄せていたチューブを手に取ってポケットに入れていた小瓶から出した液体で濡らした。
変なものをつけられて普段より重みを感じる股間が鐘久に違和感を訴えてくる。ぷらぷらと自分で振ってみても根元の袋がリングに引っかかっている所為でなかなか外れるようなものではなさそうだ。
「鐘久様、動くと痛いですよ」
そう注意されて男の手元を見ると、てかてかと濡れたチューブが今まさに貞操帯の先に開いた穴から入ろうと言うところだった。
「え、やっいや、ちょっと待て!」
これからやろうとすることがわかってビクッと腰を引かせる。
「それ……入れんの……?」
「えぇ。入れますよ。ちょっと先っぽを塞ぐだけです。奥まで突っ込まないのでご安心を」
「や、でも入れるにしてもそんな太いの……」
鐘久が凝視する目線の先には、鉛筆ほどの太さのチューブがゆらゆらと動いでいる。
「細い方が、実は痛いそうですよ?」
ニコッと口角を上げる男。
「大丈夫です。怪我はさせませんから」
プツッとチューブが穴から奥に入っていく。
「ひぎゃぁあ?!ぐっ……あ、あ、いだい……!」
鐘久はゆっくりと圧迫されていく感覚に目をひん剥きそうになりながら天井を仰いだ。
普通に痛い。
薄い粘膜でできた管を潤滑剤を纏わせたチューブがぬるぬると進んでいく。ヒリヒリとした痛みが次第にもの全体に広がり、じわりと熱を帯びていく。
「うぁ゛ぁ……っあ゛……」
太ももをつねって何とか痛みを堪える。チューブはそんなに長くない。10センチ弱ほどのそれを残り2センチは残した形で男の手から離れた。男が正面から退くと同時にまたケース越しにカメラを向けられる。
鐘久が何とか息を整えていると姿勢の指示が入った。
それと同時に客が右や左に分散していく。右側の客は鐘久の顔がよく見える位置、左側の客は鐘久のお尻がよく見える位置だ。
鐘久は嫌がる気も失せて四つん這いになる。これから猫のパーツの最後を入れるのだそうだ。
「……尻尾か」
「ご名答。しっかしあんちゃんのケツ穴ちっせぇな……こりゃ尻尾の前にまず指だな」
荒い男は自分の人差し指をぐっと鐘久の穴にあてがった。固く窄められた菊門は男の指ですら容易に受け入れそうにない。
「あんちゃんよぉ、あんたしっかりクソしてるか?」
「あ、当たり前だ!」
何言ってんだこいつはとでも言うようにしっかり食いついてきた鐘久に満足したのか「へっへ、冗談冗談」と笑って自分のエプロンについたポケットをまさぐった。
丁寧な男が持っていたものと同じような瓶を手に取ると片手で開けて指をあてがったままの鐘久の尻穴ごと液体で濡らす。
「ん……冷たぃ」
キュッと身を縮める鐘久だったが、それからすぐにぐにゅりと何かが後ろからのめり込むような感覚で「ふあ」と声を漏らした。
「よーし、ちゃんと入るな」
どうやら男の指が一本入ってきたらしい。
丁寧な男が鐘久の顔側にしゃがむと、頭を撫でて言った。
「世話係が施したオイルマッサージはまだ効いてますね?」
ただの確認のはずだが、ショーが始まってからは外に追いやっていた温感オイルの感覚が急にぶり返し始めた。
「あれはあなたの体を柔らかくし、肌に触れる一切のものを敏感に感じ取れるようにするものです。一回では効果は小さいですが、毎日きちんと行えば、全身を性感帯のようにすることも可能です。ですが貴方がこの船にいられるのは1週間のみ……ですからこのショーの時間も使って、鐘久様の体が最終日までに最高の状態になるようお手伝いします」
「ぃやだ……やめろ」
「特に感度を高めたい胸とアナルは長い時間をかけて調教する必要がありますから、早めに手をかけていきましょうね♪」
「調教だなんてっ……ぅぁ」
夕が言っていたのってこれか。
丁寧な男とのやりとりの合間に、荒い男が後ろから指を抜き差ししてくる。ゆっくり突っ込まれて圧迫しては勢いよく引き抜かれる指に、少しずつ嫌悪とは違う感覚が生まれ始める。
「まずはその男の指に慣れてください。お尻の入口というのは女性器と違って入れる感覚より出る感覚の方が快を伴いやすい部位です。排泄の行為でスッキリするのと同じですかねぇ」
「んぐっ……はぁ、……ん、ッハァ」
「ブクク、もう気持ちよさそーにしてんなぁあんちゃん」
荒い男も自分の指のタイミングでリズミカルに息を漏らす鐘久が面白くなってきているのかいつもの気味の悪い声が出ている。
「これからあんたはコッチで感じて、メスみたいにイケるようにしてやるからな!ブククッ」
「ハァぁ!?ハァ、ハァ……くそっ!」
コッチで、というと同時に男の指がぐぅるりとお尻の中で円を描く。感じるものかと構えれば構えるほど、指の動きを意識してしまい、抜かれる刺激を腰に送ってしまう自分に悔しくなる。
穴より奥、指が動く範囲にはこれといった痛覚はない。ぎゅ、と圧がかかる感覚があったりトントンと壁を叩かれているような振動はあるが、具体的にどんな指の動きをされているのかは全くわからない。
ただその指がにゅっと外へ出ていく感覚だけは妙な味わいがあった。
触覚が鈍感なのをいいことに男は指の数を鐘久の知らない間に2本にし、3本にしていた。グニグニと別々に動かすと、指の間に隙間ができるようになる。
また明日には締まってしまうだろうが、ひとまず今日はこれでいい。ん、あ、と声を漏らす鐘久をよそに男は指を引き抜いた。
「んぁ!」
鐘久がぴくんと腰を逸らすと、かちゃりと股間についた金具も揺れた。
装着した時よりもややきつそうに肉がはみ出ているが、しっかり金具の形に固定されているため大きさは変わらぬままだ。なるほどこの先射精ができない状態でイかなければいけないのか、と上の空で察した。
「そろそろつけましょうか」
丁寧な男が箱から猫の尻尾らしきものを取り出した。
黒く細長い尻尾に見立てた毛の飾りの根本には、ぽこぽこと起伏のついたシリコン状の棒が付いている。先端は細めだが、起伏を経て次第に長茄子のような太さになり、そこで一際大きくくびれて毛飾りに繋がっている。長茄子ほど長くはないが、鐘久の直腸を確実に圧迫するのは見てとれた。
ゴク、と唾を飲み込んだ。今からこれが入るのか。
「一度入ってしまえば中はある程度広いので問題ありませんよ」
「い、いやでも流石にこの太さの便はしたことが……」
「でしたら、明日からはお通じが良くなるかもしれませんね」
見当違いな励ましを受けるが体は強ばるばかりでうまく動かない。
荒い男が尻尾を受け取り潤滑剤で滑らかさを足すと、シリコンの先をいよいよ鐘久の穴に入れ始めた。
最初は先の男の指よりは弱い刺激だった。つぷりとひとつめのくびれを抜けると勢いをつけて中に入ってくるのがわかった。
「う、ぁ……」
時折途中まで抜いたり戻したりしながら少しずつそれを飲み込んでいく。
絶対痛くて裂けてしまうと思っていたが、男の3本指で慣らしたおかげで最後のくびれまできていることに気づかなかった。
「あと少しで全部ですからねぇ……」
丁寧な男に頭を撫でられながら男の言葉を信じてギュッと目を瞑った。今までで一番大きく広げられたあと、元に戻ろうと窄んで自ら棒を呑み込んでいく。
「ひゃぁ……ぁぁ……あぁいや…………」
こうしてすっかりと根元まで呑み込むと、一本指ほどの空間を開けて広がったり閉じたりを繰り返した。
鐘久にゃんこの完成である。
四つ足で体を支えてはいるもののあまりに下半身への刺激が強くガクガクと腰が落ちそうになっている。揺れて外れかけた猫耳のカチューシャを丁寧な男がきちんと鐘久に付け直すと、一旦男たちは鐘久から距離をとった。シャッターチャンスである。
調教の時間ではあるがこれらは全てショーの一環なのだ。しっかりと見せ場を作って観客がひとしきり鐘久の痴態を堪能すると、観客の邪魔にならないように丁寧な男が鐘久の前にまたしゃがんだ。
「さぁ、仔猫様。気分はどうですか?」
名称が変わったことで余計に気持ち悪さを増した男との自分の関係に、鐘久は苦い顔で答えた。
「すっげぇ嫌」
「まぁ、そうでしょうねぇ」
「写真は……撮れたんだろ?は、はやく……抜いて…………」
「いやいや、まだこれからですよ」
「……?」
これ以上あと何をするんだ、と絶望していると、丁寧な男がねっとりと声音を変えて話した。
「仔猫様、今日のショーではまだ一度も達してはいないのでしょう?」
ハッとして静かに股間を見る。金具に絞められ苦しそうな肉棒は勃つことすら叶わずギチギチと汗をかくだけだ。
「そりゃこんな状態なんだからいけるわけ……」
「大丈夫です。今の貴方ならいけますよ」
ニコッと微笑んだ男はポケットから小さな機械を取り出す。
それはスイッチのようだった。
「……何をする気だ」
サァ……と血の気が引いていく。
「無駄な質問ですね……気づいているのでしょうに」
ニンマリと笑みを浮かべた男はスイッチを入れる前に耳元で囁いた。
「体に聞いてみてください。鐘久様の体が今一番びくついている場所はどこでしたか?」
言葉にして説明されるといやでも頭はその答えを出そうとしてしまう。
股間はびくつけないほどガチガチに固められているから違う。
胸は今日はいじられていないから違う。
今なおスイッチに反応するような物を身につけていそうな場所―
意識は今まさに自ら尻尾の奥に向いたところだった。男はスイッチを入れた。
「?!ぅに゛ゃあ゛あぁあ゛ぁ?!?!」
悲鳴ともとれる声をあげて鐘久の背がぐんと反る。うねうねと不規則に蠢く棒は腸の壁越しに股間を刺激し、未知への驚きと恐怖で目を白黒させている鐘久をさらに混乱させた。
体が熱い。自分の知らない声が漏れてる。ビクビクが止まらない。止めて欲しいと言わなければいけないことを忘れてただただ刺激を受けるので精一杯になってしまう。
「おやおや、自分から猫語を話すとは」
眉を上げて丁寧な男は小さく喜んだ。
「手順が一つ省けますよ」
「べっ別に、ねこ、のっつもりっは……」
どうにか言葉を紡ごうと必死になる鐘久の尻尾を荒い男が掴んで乱暴に揺すった。
「アァッアァ、ハ、アッやだっ!」
「へへ、よく鳴くなぁ!前立腺は癖になるだろ?」
鐘久は身悶えた。
身じろぎが段々と刺激から逃れるためではなく自ら股間の奥を棒に押し付けるものへと変わっていくのが客からは見てとれる。
「おーおー、ずいぶんお盛んなこって」
やだやだと否定の言葉を口走ってはいるが確実に快楽に飲まれており、時折涎を飲み込み損ねて咽せたりしている。
荒い男はそれを見て丁寧な男に提案した。
「なぁ、ボールつけてやれよ」
丁寧な男は少し考えたあと、わかりましたとうなずいて箱の中からピンポン玉程のボールを取り出す。
「鐘久様、唾は飲み込まない方が安全ですよ」
「あっあっ……でも……とまんなぃ」
「止めなくていいですよ。そのまま流してしまった方が官能的ですし」
口をお開けください、とボールを口に近づけて誘導する。言われるがままに口を開けると、ボールは口を開けっ放しにしたまま左右の紐で後頭部に固定された。
「あぅ……ぉぇああ……?」
「ボールギャグ、と言うものです。予定より少し早いですがつけて慣らしてしまいましょう。口元から垂れていく感覚に慣れたら外して差し上げますよ」
「おぅあ……うあっあ、あぁ!」
そんな、と口にしたつもりが言葉にならない呻きに変わる。
会話の途中にもかかわらず荒い男は気分の向くままに尻尾を掴んでは少し抜いてみたり突っ込んでみたり、揺らしてくる。素直に一つ一つに反応してしまう自分も自分で、次第に喘ぎ声が大きくなってきているのを他人事のように感じ取っていた。
なにか、何かが来てしまう。むく、と勃起する連想をするも、貞操帯のおかげで上を向くことは叶わず、ミチミチと大きくはみ出して陰嚢を引っ張られる。
「?!あ゛あ゛あ゛ああっっ!!!や゛っ!おえいあぃ!!ぅああ!あああぁ!!!」
激痛が走る下半身に反っていた背中を逆に丸める。
後ろの棒が暴れるたびにくねらせたい衝動に駆られているのに、不用意に動けば前が引っ張られて痛い。
鐘久の頭はどうすればいいかわからないまま混乱で考えることができなくなっていった。
「あ!あぅ!いぁ、あうぃえ!!く、くゅ!きぁうぅ!!あ゛ああぁぁぁああぁぁ!!!!」
バチンと頭の中が弾けるような感覚とともに、一瞬全ての体の機能が停止した気がした。
「お?メスイキか?」
「……いえ。しかしドライではいけているようですね」
鐘久には男たちが冷静に見定める声も聞こえていないようで、支える力を失った四肢を曲げてどたりと倒れ込んだ。まだ動いているはずの後ろの棒にも反応できずはぁはぁと遠くを見やっている。
丁寧な男がスイッチを切り、鐘久を労った。
「よく頑張りましたね、仔猫様」
顔に近づけば酷い有り様が確認できた。
生理的にでた涙や汗で髪が頬にぺたりと張り付き、散々閉まらない口で叫んだおかげで涎がダラダラと垂れて台を湿らせていた。その台に倒れ伏したことで下にした肌も濡れている。
普段なら不快極まりない環境にも何も言えずにただピクピクと跳ねるだけの鐘久の腰を撫でると、「あぅ」と鳴いた。
「ご覧ください……お客様も大満足のようですよ」
丁寧な男が鐘久の耳元で囁く。鐘久は聞こえた声の意味すらも暫く噛み砕けずにいたが、ふわふわと視線を漂わせると、ガラス越しに1番近くで視認できる客と目が合った。
ねっとりとした目だった。
細くなった目から真っ黒な欲が底なしに広がっている気がする。
それは目に捉えた光を全て呑み込む。会場のライトを、湧き上がる歓声を―ガラス越しの鐘久を。
ヒッと声を上げたつもりだったがどうやら音にはなっておらず、固まった鐘久を丁寧な男が更に攻めた。
「そのうちこのドライが……この視線が病みつきになる日が来ます。楽しみにしていてくださいね」
男は鐘久の口からボールを外すと、丁寧にタオルで口周りを拭った。鐘久が喋れることを確認する。
「今日はこれができたら最後にしましょう」
そう言って伝えられた指示は今までの中でも1番耐えられないものだった。
鐘久からは見えない場所に置かれた箱の中から、次々と装飾品や用途不明の道具が出てきては丁寧に鐘久に身に付けさせる。
黒い獣風の耳がついたカチューシャ、赤いエナメルの首輪に鈴と小さなマイクのついたもの、レースの手袋。
たまにロープやフック、ボールなどよくわからないものも混じっているが、それは身に付けずに台のそばに並べられていく。鐘久はその間何もせずに指示されたポーズで座らされていた。
「――!――は…………した!」
小さく外の司会の声がスピーカーから伝えられる。どういう進行でどんな紹介をされているのかはまだ不明だ。しばらく流し見ていると横から声がかかった。
「気になるか?」
荒い男が鐘久の尻を正面からは見えない角度で揉みながら、丁寧な男から受け渡される装飾品ではないもの―つまりロープやボールなどの「ハズレの品」――を台の横に置く役をこなしている。
基本的には丁寧な男が司会と連携してケース内の進行を務めているようで、荒い男も司会の言葉はインカムで聞いてはいるが大した指示は来てないようだ。
「……別に」
着々と猫のような格好にされて猫のような可愛らしいポーズを要求されていれば大体は察しがつく。昨日の服に比べてより特殊性が増してはいるが、鐘久にとってそれは昨日と大差ないことだった。
恥ずかしさよりもどうとでもなれという気持ちが強いためそっぽを向いてそのポーズを取る姿はまさしくすました猫だ。
天然なのか意図的なのか、鐘久の行動は男たちにとってとても「上出来」だった。
「――は、こ――……!」
一際大きな歓声が沸いて拍手する客たちが見える。丁寧な男が次に取り出したのは、円になった金具と細いチューブ。鐘久が初めて見る道具だった。
「なんだ……?それ」
手のひらに収まるくらいの大きさで、太い金属の棒がぐるっと3重ほど円を描いている。その先端には小さな穴とそこにぎりぎり通る太さのチューブが刺さっている。
「貞操帯と言います。ご存知ですか?」
「……他の男に女を取られないように婦人につけたやつか?」
「その通りです。当時も他者が性欲を管理すると言う点では躾の意味も込めて使われていたもので、現在でも一種のプレイに使われています」
「性欲の管理……?」
「付ければわかりますよ」
なんとなく嫌な予感がする。昨日も確か自分の意思に関わらず何度もいかされたことを思い出して体が震えた。
失礼しますね~、と昨日と同じく正面に屈んで服の裾を捲った。一瞬及び腰になるもいつの間にか後ろには荒い男が控えている。
「嫌って言えれば俺があんちゃんを動かしてつけてやるから安心しな」
ニヤニヤと笑う荒い男はどかっと座ると、すぐに腕や足を掴める姿勢をとった。掴んでこないところを見ると、今日はあえて鐘久が自ら施しを受けるように見せたいようだ。
「では足を開いてお客様に今の状態をしっかりお見せください」
「……っ」
数秒迷った挙句鐘久は黙って股を広げた。力技で男にやらされるよりは体力の消耗がない。スースーとした空気を感じながら、俯いてフラッシュで騒がしい観客の反応を見ないようにする。
代わりに自分の股間のものが視界に入った。一度ガチガチになっていた昨日のそれと比べると今日はまだ落ち着いており、陰毛の下で小さく丸く収まっている。
「ウーン、可愛らしいですねぇ」
「…………」
「昨日のペニスもそそり立つ勇ましさと格好の可愛さが良いギャップになっていて大反響だったのですが、どちらも人気が出そうな形ですね」
根本の袋に優しく触れて形状を確かめる丁寧な男に、鐘久は嫌悪した。
「ち◯こに形の良いも悪いもあるもんか」
「ありますよ~!色や皺、皮の状態……人によって様々ですから。色白で肌荒れもない、性経験もない鐘久様の性器はとても愛らしい」
「きっもちわる……」
鐘久はうげぇ、と顔を歪ませた。
「こなしてきたショー次第でこれからのショーの内容も変わってきますから、しっかり見せつけてやってくださいね」
そういうと、手に持った金具を漸く鐘久のモノにぐいっと押し付けた。モノがすっぽりと金具に収まると、根元についた錠前にかちゃりと鍵をかける。
何度か揺らして金具が外れないことを確認した男は、そばに寄せていたチューブを手に取ってポケットに入れていた小瓶から出した液体で濡らした。
変なものをつけられて普段より重みを感じる股間が鐘久に違和感を訴えてくる。ぷらぷらと自分で振ってみても根元の袋がリングに引っかかっている所為でなかなか外れるようなものではなさそうだ。
「鐘久様、動くと痛いですよ」
そう注意されて男の手元を見ると、てかてかと濡れたチューブが今まさに貞操帯の先に開いた穴から入ろうと言うところだった。
「え、やっいや、ちょっと待て!」
これからやろうとすることがわかってビクッと腰を引かせる。
「それ……入れんの……?」
「えぇ。入れますよ。ちょっと先っぽを塞ぐだけです。奥まで突っ込まないのでご安心を」
「や、でも入れるにしてもそんな太いの……」
鐘久が凝視する目線の先には、鉛筆ほどの太さのチューブがゆらゆらと動いでいる。
「細い方が、実は痛いそうですよ?」
ニコッと口角を上げる男。
「大丈夫です。怪我はさせませんから」
プツッとチューブが穴から奥に入っていく。
「ひぎゃぁあ?!ぐっ……あ、あ、いだい……!」
鐘久はゆっくりと圧迫されていく感覚に目をひん剥きそうになりながら天井を仰いだ。
普通に痛い。
薄い粘膜でできた管を潤滑剤を纏わせたチューブがぬるぬると進んでいく。ヒリヒリとした痛みが次第にもの全体に広がり、じわりと熱を帯びていく。
「うぁ゛ぁ……っあ゛……」
太ももをつねって何とか痛みを堪える。チューブはそんなに長くない。10センチ弱ほどのそれを残り2センチは残した形で男の手から離れた。男が正面から退くと同時にまたケース越しにカメラを向けられる。
鐘久が何とか息を整えていると姿勢の指示が入った。
それと同時に客が右や左に分散していく。右側の客は鐘久の顔がよく見える位置、左側の客は鐘久のお尻がよく見える位置だ。
鐘久は嫌がる気も失せて四つん這いになる。これから猫のパーツの最後を入れるのだそうだ。
「……尻尾か」
「ご名答。しっかしあんちゃんのケツ穴ちっせぇな……こりゃ尻尾の前にまず指だな」
荒い男は自分の人差し指をぐっと鐘久の穴にあてがった。固く窄められた菊門は男の指ですら容易に受け入れそうにない。
「あんちゃんよぉ、あんたしっかりクソしてるか?」
「あ、当たり前だ!」
何言ってんだこいつはとでも言うようにしっかり食いついてきた鐘久に満足したのか「へっへ、冗談冗談」と笑って自分のエプロンについたポケットをまさぐった。
丁寧な男が持っていたものと同じような瓶を手に取ると片手で開けて指をあてがったままの鐘久の尻穴ごと液体で濡らす。
「ん……冷たぃ」
キュッと身を縮める鐘久だったが、それからすぐにぐにゅりと何かが後ろからのめり込むような感覚で「ふあ」と声を漏らした。
「よーし、ちゃんと入るな」
どうやら男の指が一本入ってきたらしい。
丁寧な男が鐘久の顔側にしゃがむと、頭を撫でて言った。
「世話係が施したオイルマッサージはまだ効いてますね?」
ただの確認のはずだが、ショーが始まってからは外に追いやっていた温感オイルの感覚が急にぶり返し始めた。
「あれはあなたの体を柔らかくし、肌に触れる一切のものを敏感に感じ取れるようにするものです。一回では効果は小さいですが、毎日きちんと行えば、全身を性感帯のようにすることも可能です。ですが貴方がこの船にいられるのは1週間のみ……ですからこのショーの時間も使って、鐘久様の体が最終日までに最高の状態になるようお手伝いします」
「ぃやだ……やめろ」
「特に感度を高めたい胸とアナルは長い時間をかけて調教する必要がありますから、早めに手をかけていきましょうね♪」
「調教だなんてっ……ぅぁ」
夕が言っていたのってこれか。
丁寧な男とのやりとりの合間に、荒い男が後ろから指を抜き差ししてくる。ゆっくり突っ込まれて圧迫しては勢いよく引き抜かれる指に、少しずつ嫌悪とは違う感覚が生まれ始める。
「まずはその男の指に慣れてください。お尻の入口というのは女性器と違って入れる感覚より出る感覚の方が快を伴いやすい部位です。排泄の行為でスッキリするのと同じですかねぇ」
「んぐっ……はぁ、……ん、ッハァ」
「ブクク、もう気持ちよさそーにしてんなぁあんちゃん」
荒い男も自分の指のタイミングでリズミカルに息を漏らす鐘久が面白くなってきているのかいつもの気味の悪い声が出ている。
「これからあんたはコッチで感じて、メスみたいにイケるようにしてやるからな!ブククッ」
「ハァぁ!?ハァ、ハァ……くそっ!」
コッチで、というと同時に男の指がぐぅるりとお尻の中で円を描く。感じるものかと構えれば構えるほど、指の動きを意識してしまい、抜かれる刺激を腰に送ってしまう自分に悔しくなる。
穴より奥、指が動く範囲にはこれといった痛覚はない。ぎゅ、と圧がかかる感覚があったりトントンと壁を叩かれているような振動はあるが、具体的にどんな指の動きをされているのかは全くわからない。
ただその指がにゅっと外へ出ていく感覚だけは妙な味わいがあった。
触覚が鈍感なのをいいことに男は指の数を鐘久の知らない間に2本にし、3本にしていた。グニグニと別々に動かすと、指の間に隙間ができるようになる。
また明日には締まってしまうだろうが、ひとまず今日はこれでいい。ん、あ、と声を漏らす鐘久をよそに男は指を引き抜いた。
「んぁ!」
鐘久がぴくんと腰を逸らすと、かちゃりと股間についた金具も揺れた。
装着した時よりもややきつそうに肉がはみ出ているが、しっかり金具の形に固定されているため大きさは変わらぬままだ。なるほどこの先射精ができない状態でイかなければいけないのか、と上の空で察した。
「そろそろつけましょうか」
丁寧な男が箱から猫の尻尾らしきものを取り出した。
黒く細長い尻尾に見立てた毛の飾りの根本には、ぽこぽこと起伏のついたシリコン状の棒が付いている。先端は細めだが、起伏を経て次第に長茄子のような太さになり、そこで一際大きくくびれて毛飾りに繋がっている。長茄子ほど長くはないが、鐘久の直腸を確実に圧迫するのは見てとれた。
ゴク、と唾を飲み込んだ。今からこれが入るのか。
「一度入ってしまえば中はある程度広いので問題ありませんよ」
「い、いやでも流石にこの太さの便はしたことが……」
「でしたら、明日からはお通じが良くなるかもしれませんね」
見当違いな励ましを受けるが体は強ばるばかりでうまく動かない。
荒い男が尻尾を受け取り潤滑剤で滑らかさを足すと、シリコンの先をいよいよ鐘久の穴に入れ始めた。
最初は先の男の指よりは弱い刺激だった。つぷりとひとつめのくびれを抜けると勢いをつけて中に入ってくるのがわかった。
「う、ぁ……」
時折途中まで抜いたり戻したりしながら少しずつそれを飲み込んでいく。
絶対痛くて裂けてしまうと思っていたが、男の3本指で慣らしたおかげで最後のくびれまできていることに気づかなかった。
「あと少しで全部ですからねぇ……」
丁寧な男に頭を撫でられながら男の言葉を信じてギュッと目を瞑った。今までで一番大きく広げられたあと、元に戻ろうと窄んで自ら棒を呑み込んでいく。
「ひゃぁ……ぁぁ……あぁいや…………」
こうしてすっかりと根元まで呑み込むと、一本指ほどの空間を開けて広がったり閉じたりを繰り返した。
鐘久にゃんこの完成である。
四つ足で体を支えてはいるもののあまりに下半身への刺激が強くガクガクと腰が落ちそうになっている。揺れて外れかけた猫耳のカチューシャを丁寧な男がきちんと鐘久に付け直すと、一旦男たちは鐘久から距離をとった。シャッターチャンスである。
調教の時間ではあるがこれらは全てショーの一環なのだ。しっかりと見せ場を作って観客がひとしきり鐘久の痴態を堪能すると、観客の邪魔にならないように丁寧な男が鐘久の前にまたしゃがんだ。
「さぁ、仔猫様。気分はどうですか?」
名称が変わったことで余計に気持ち悪さを増した男との自分の関係に、鐘久は苦い顔で答えた。
「すっげぇ嫌」
「まぁ、そうでしょうねぇ」
「写真は……撮れたんだろ?は、はやく……抜いて…………」
「いやいや、まだこれからですよ」
「……?」
これ以上あと何をするんだ、と絶望していると、丁寧な男がねっとりと声音を変えて話した。
「仔猫様、今日のショーではまだ一度も達してはいないのでしょう?」
ハッとして静かに股間を見る。金具に絞められ苦しそうな肉棒は勃つことすら叶わずギチギチと汗をかくだけだ。
「そりゃこんな状態なんだからいけるわけ……」
「大丈夫です。今の貴方ならいけますよ」
ニコッと微笑んだ男はポケットから小さな機械を取り出す。
それはスイッチのようだった。
「……何をする気だ」
サァ……と血の気が引いていく。
「無駄な質問ですね……気づいているのでしょうに」
ニンマリと笑みを浮かべた男はスイッチを入れる前に耳元で囁いた。
「体に聞いてみてください。鐘久様の体が今一番びくついている場所はどこでしたか?」
言葉にして説明されるといやでも頭はその答えを出そうとしてしまう。
股間はびくつけないほどガチガチに固められているから違う。
胸は今日はいじられていないから違う。
今なおスイッチに反応するような物を身につけていそうな場所―
意識は今まさに自ら尻尾の奥に向いたところだった。男はスイッチを入れた。
「?!ぅに゛ゃあ゛あぁあ゛ぁ?!?!」
悲鳴ともとれる声をあげて鐘久の背がぐんと反る。うねうねと不規則に蠢く棒は腸の壁越しに股間を刺激し、未知への驚きと恐怖で目を白黒させている鐘久をさらに混乱させた。
体が熱い。自分の知らない声が漏れてる。ビクビクが止まらない。止めて欲しいと言わなければいけないことを忘れてただただ刺激を受けるので精一杯になってしまう。
「おやおや、自分から猫語を話すとは」
眉を上げて丁寧な男は小さく喜んだ。
「手順が一つ省けますよ」
「べっ別に、ねこ、のっつもりっは……」
どうにか言葉を紡ごうと必死になる鐘久の尻尾を荒い男が掴んで乱暴に揺すった。
「アァッアァ、ハ、アッやだっ!」
「へへ、よく鳴くなぁ!前立腺は癖になるだろ?」
鐘久は身悶えた。
身じろぎが段々と刺激から逃れるためではなく自ら股間の奥を棒に押し付けるものへと変わっていくのが客からは見てとれる。
「おーおー、ずいぶんお盛んなこって」
やだやだと否定の言葉を口走ってはいるが確実に快楽に飲まれており、時折涎を飲み込み損ねて咽せたりしている。
荒い男はそれを見て丁寧な男に提案した。
「なぁ、ボールつけてやれよ」
丁寧な男は少し考えたあと、わかりましたとうなずいて箱の中からピンポン玉程のボールを取り出す。
「鐘久様、唾は飲み込まない方が安全ですよ」
「あっあっ……でも……とまんなぃ」
「止めなくていいですよ。そのまま流してしまった方が官能的ですし」
口をお開けください、とボールを口に近づけて誘導する。言われるがままに口を開けると、ボールは口を開けっ放しにしたまま左右の紐で後頭部に固定された。
「あぅ……ぉぇああ……?」
「ボールギャグ、と言うものです。予定より少し早いですがつけて慣らしてしまいましょう。口元から垂れていく感覚に慣れたら外して差し上げますよ」
「おぅあ……うあっあ、あぁ!」
そんな、と口にしたつもりが言葉にならない呻きに変わる。
会話の途中にもかかわらず荒い男は気分の向くままに尻尾を掴んでは少し抜いてみたり突っ込んでみたり、揺らしてくる。素直に一つ一つに反応してしまう自分も自分で、次第に喘ぎ声が大きくなってきているのを他人事のように感じ取っていた。
なにか、何かが来てしまう。むく、と勃起する連想をするも、貞操帯のおかげで上を向くことは叶わず、ミチミチと大きくはみ出して陰嚢を引っ張られる。
「?!あ゛あ゛あ゛ああっっ!!!や゛っ!おえいあぃ!!ぅああ!あああぁ!!!」
激痛が走る下半身に反っていた背中を逆に丸める。
後ろの棒が暴れるたびにくねらせたい衝動に駆られているのに、不用意に動けば前が引っ張られて痛い。
鐘久の頭はどうすればいいかわからないまま混乱で考えることができなくなっていった。
「あ!あぅ!いぁ、あうぃえ!!く、くゅ!きぁうぅ!!あ゛ああぁぁぁああぁぁ!!!!」
バチンと頭の中が弾けるような感覚とともに、一瞬全ての体の機能が停止した気がした。
「お?メスイキか?」
「……いえ。しかしドライではいけているようですね」
鐘久には男たちが冷静に見定める声も聞こえていないようで、支える力を失った四肢を曲げてどたりと倒れ込んだ。まだ動いているはずの後ろの棒にも反応できずはぁはぁと遠くを見やっている。
丁寧な男がスイッチを切り、鐘久を労った。
「よく頑張りましたね、仔猫様」
顔に近づけば酷い有り様が確認できた。
生理的にでた涙や汗で髪が頬にぺたりと張り付き、散々閉まらない口で叫んだおかげで涎がダラダラと垂れて台を湿らせていた。その台に倒れ伏したことで下にした肌も濡れている。
普段なら不快極まりない環境にも何も言えずにただピクピクと跳ねるだけの鐘久の腰を撫でると、「あぅ」と鳴いた。
「ご覧ください……お客様も大満足のようですよ」
丁寧な男が鐘久の耳元で囁く。鐘久は聞こえた声の意味すらも暫く噛み砕けずにいたが、ふわふわと視線を漂わせると、ガラス越しに1番近くで視認できる客と目が合った。
ねっとりとした目だった。
細くなった目から真っ黒な欲が底なしに広がっている気がする。
それは目に捉えた光を全て呑み込む。会場のライトを、湧き上がる歓声を―ガラス越しの鐘久を。
ヒッと声を上げたつもりだったがどうやら音にはなっておらず、固まった鐘久を丁寧な男が更に攻めた。
「そのうちこのドライが……この視線が病みつきになる日が来ます。楽しみにしていてくださいね」
男は鐘久の口からボールを外すと、丁寧にタオルで口周りを拭った。鐘久が喋れることを確認する。
「今日はこれができたら最後にしましょう」
そう言って伝えられた指示は今までの中でも1番耐えられないものだった。
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