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しおりを挟むイアンと呼ばれた青年をハロルドはギロリと冷たい視線で睨みつける。そんな視線に気付かないイアンは、甘い表情でソフィアに近付く。
「久しぶり!」
馴れ馴れしくソフィアに声を掛けるイアンを見て、ぎりぎりと歯を食いしばる。
「イアン、久しぶりね。どうしてここに?」
(……っ!ソフィアまで!)
裏切られた気持ちでソフィアを見るが、ソフィアはイアンの方だけを見ている。
「ああ。今は休暇中だから。友人の家がここの近くなんだ。」
「そうだったの。」
「ところで、そちらは……。」
イアンがハロルドの方に視線を向けると、ソフィアはハッとしてハロルドへ申し訳なさそうな表情を向けた。
「ハロルド、ごめんなさい。私の弟のイアンよ。イアン、こちらは私の婚約者のハロルド、宜しくね。」
「お、弟……?」
目を丸くしたハロルドに、イアンは眩しい笑顔で会釈した。ハロルドは、婚約の手続きのため何度かソフィアの家へ足を運んでいる。弟がいるとは聞いていたが、まだ学生で寄宿舎で生活しておりハロルドはまだ顔を合わせていなかった。
「初めまして。いつも姉がお世話になってます。」
「い、いや。」
「姉さん。こんな素敵な婚約者がいるんだから、一度くらい家に帰ったらいいのに。」
「嫌よ。」
「まぁ、帰りたくない気持ちも分かるけどさ。」
ソフィアに仲の良さそうな青年がいたと勘違いし、動揺したハロルドはイアンに上手く言葉を返せないまま、イアンとソフィアの会話を聞いていた。暫くするとイアンは「じゃあ、戻るね。」と元の席に戻っていった。
「ハロルド。慌ただしくてごめんなさい。」
「いや。こっちこそ驚いてしまって。」
「弟があんな見た目だから、私を見ると皆ガッカリしちゃうのよね。」
自嘲気味にぽつりと呟いたソフィアに「そんなことない!」と否定した。遠くの席に座っているイアンがちらりとこちらを見るほどには大きな声だったようだ。
「ハロルド?」
「大きな声を出してすまない。……だが、ガッカリなんてしない。」
「え、ええ。」
戸惑うソフィアを、ハロルドは真剣な眼差しで見つめていた。
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