上 下
64 / 64

番外編:アルバートが愛する二人のレディ

しおりを挟む

「ベアトリス。こちらへいらっしゃい。」


 アレクサンドラが厳しい声色で呼ぶと、ベアトリスはびくりとした後、アレクサンドラの傍に近づいた。


「はい。おかあさま。」


「貴女、また近所の子どもを泣かせたでしょう。」


「だって、ノエルをなかせるから!」


「勿論、相手の子も良くないけれど、貴女が泣かせるのも良くないことだわ。」


「おかあさま……ごめんなさい。」


 しょんぼりと謝るベアトリスは、アレクサンドラとアルバートの愛娘である。そしてノエルは、アレクサンドラの義妹マーガレットとクリストファーの息子だ。二人は五歳で、仲の良い遊び仲間だ。


「いいこと?こんな時、相手の子をどうお仕置きするか教えるから、よく聞きなさい。」


「はい!おかあさま!」


「ちょ、ちょっと待て。」


 アレクサンドラの英才教育を止めるのは、アルバートの役目だ。だが、愛する二人から不思議そうに見つめられてしまう。


「あら?どうしてかしら?」


「おとうさま!わたくし、ノエルをまもりたいんです!」


「……っ、ベアトリス、君は女の子だ。そんなに勇ましくならなくても良いんじゃないか?」


「いいえ。ノエルはいつもぼんやりしているから、わたしがまもらないと!」


 ノエルは、マーガレットとクリストファーに似て、穏やかな性格だ。そのせいでよく近所の子どもたちに揶揄われている。その子どもたちを蹴散らすのがベアトリスの役目だった。


「だが……。」


 納得できない様子のアルバートに、ベアトリスは一撃を繰り出した。


「おとうさま。わたくし、ノエルとけっこんしたいんです!」


「なっ……!」


 狼狽するアルバートを、アレクサンドラは可笑しそうに見つめた。


「だいすきなひとをまもる。おとうさまとおかあさまがよくおはなしされていることよ!」


「そ、それは……。」


「まえはおとうさまとけっこんするっていいましたけど、おとうさまとはけっこんできなくなりました。」


 ごめんなさい、と小さな頭をぺこりと下げる様子は可愛らしい。が、謝られたアルバートは目に薄っすら涙を溜め、言葉が出ないようだ。



「それじゃあ。」


 ふわりとお淑やかな動作で、アレクサンドラはアルバートの膝に座った。


「サンドラ……。」


 いつもなら子どもの前で、と怒るところだが、愛する娘に振られたばかりのアルバートは、心が救われる思いだった。


「おかあさま!だっこなんてずるいです!」


「あら?ベアトリスはノエルが大好きなのでしょう?お母様は、お父様が大好きなので抱っこしてもらえるんですよ。」


 貴女はノエルの所にでも行きなさい、と追い払うかのように手を振ると、ベアトリスは顔を真っ赤にしてアルバートの空いた方の膝に飛び乗った。


「わたくしだって、おとうさまのことだいすきなのに!」


 ぎゅうぎゅうに抱き着かれ、怒りながら愛の告白をされたアルバートは破顔した。両膝にそれぞれ、愛する妻と娘を乗せている幸せを感じていた。ベアトリスは怒りながら、泣いた後、うとうとと微睡み始めた。



「ふふ、忙しい子ですこと。」


「ああ。君によく似ている。」


「あら?そうかしら?」


 アルバートは頷きながら、ベアトリスの目元の涙を拭った。


「……この子がいつかお嫁にいくことが恐ろしい。」


「あらあら。気の早いお父様ですね。」


 くすくすと小さい笑い声を上げた後、アレクサンドラは言葉を続けた。


「だけど、私はこの子に愛する方を見つけてほしいわ。」


「なっ……。」



 言葉を無くした夫の顔を優しく撫でると、アレクサンドラは耳元で囁いた。「だって、貴方に愛されて、私はこんなにも幸せなんですもの。」と。










〈王太子妃候補の悪役令嬢は、どうしても野獣辺境伯を手に入れたい:完〉



 これにて完結となります。終わることが名残惜しくなってしまい、予定していたより長くなってしまいました。たくさんの方々に読んでいただき、嬉しかったです!最後までお読みいただきありがとうございました!
しおりを挟む
感想 44

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(44件)

牡丹GO
2024.11.12 牡丹GO

とても楽しかったです!

たまこ
2024.11.14 たまこ

ご感想ありがとうございます!お楽しみいただけてとても嬉しいです♪

解除
Kita
2023.05.13 Kita

たまこ先生✨
完結おめでとうございます㊗️

3ヶ月もの間、毎日楽しませてくださり、ありがとうございました🥰💕

そして、本当にお疲れ様でした🙇

たまこ先生の作品、全てに共通するのが『脇役が主役を食う程、魅力的✨』という所です😍

そんな脇役さん達にスポットを当てた『番外編』も本編と同じくらい楽しくて、毎回夢中で読ませていただきました📖

個人的には、アルと共に懸命に辺境の安全を支えてきた、不遇キャラ(ロマンチックの犠牲者🤣)ジャンが、みんな大好きジェニーちゃんと結ばれたお話が、本当に嬉しくて、大好きでした💘💘💘

そして何と言っても、ベアトリスちゃんとノエル君😍💕(たまこ先生作品で、お子様登場👶初めてじゃないですか??)
ビックサプライズでした(゚Д゚)!!

ベアトリスちゃんがサンドラちゃんにそっくりなところが、とても良かったです( *´艸`)
また、サンドラちゃんの『正しいお仕置き講座✏️』それをアルが『英才教育✒️』と呼ぶ、たまこ先生節に大爆笑してしまいました🤣

3ヶ月間、共に過ごした、大好きなお話が終わってしまうのはとてもさびしいですが、また何度も読み返したいと思います📖✨

あぁ~本当に面白かった❤️
たまこ先生✨素敵な作品をありがとうございました📕✨

たまこ
2023.05.13 たまこ

Kitaさま

素敵な感想ありがとうございます!!😭😭

アレクサンドラを始め、濃すぎるキャラばかりのこの作品はお別れするのが寂しくて、ついつい番外編もたっぷりになってしまいました😆

ジャンとジェニーのお話は、私も書いていて楽しかったです!Kitaさまにも気に入っていただけて良かった!🎵

そうなんです!子ども登場は初なんです👶どうしても娘にデレるアルバートを書きたくて、ベアトリスとノエルに登場してもらいました😆💕

読み返して頂けるなんて、感無量です!!長い時間かけて書く中で、Kitaさまの感想にいつも励まされていました!最後までお読みいただきありがとうございました!!😆✨

解除
Kita
2023.05.12 Kita

たまこせんせー😭

不遇キャラの名を欲しいままにしていたジャンが…😭世界一の果報者になりましたよー😭

良かった…本当に良かった~😭
この2人大好きなので、とっても嬉しいです🎉🎊👏

そして下の感想、ジェニーちゃんを何故かソフィアちゃんと書いてしまった私をお許しください🙇‍♀️

たまこ
2023.05.12 たまこ

漸く、ジャンの想いが実りました〜!!
良かった〜〜!!😭😭
アレクサンドラとアルバートを支える二人が幸せになれて良かった良かった🎵


大丈夫ですよ〜〜私も、並行して書いているせいかしょっちゅう「混ざってないか⁉️」とドキドキしてます🤣
逆に、どの作品も読んで頂けて嬉しすぎます!😭😭いつもありがとうございます〜〜!!

解除

あなたにおすすめの小説

【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです

gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

王太子妃候補クララの恋愛事情~政略結婚なんてお断りします~

鈴宮(すずみや)
恋愛
 王族の秘書(=内侍)として城へ出仕することになった、公爵令嬢クララ。ところが内侍は、未来の妃に箔を付けるために設けられた役職だった。  おまけに、この国の王太子は未だ定まっておらず、宰相の娘であるクララは第3王子フリードの内侍兼仮の婚約者として王位継承戦へと巻き込まれていくことに。  けれど、運命の出会いを求めるクララは、政略結婚を受け入れるわけにはいかない。憧れだった宮仕えを諦めて、城から立ち去ろうと思っていたのだが。 「おまえはおまえの目的のために働けばいい」  フリードの側近、コーエンはそう言ってクララに手を差し伸べる。これはフリードが王太子の座を獲得するまでの期間限定の婚約。その間にクララは城で思う存分運命の出会いを探せば良いと言うのだ。  クララは今日も、運命の出会いと婚約破棄を目指して邁進する。

婚約破棄された枯葉令嬢は、車椅子王子に溺愛される

夏生 羽都
恋愛
地味な伯爵令嬢のフィリアには美しい婚約者がいる。 第三王子のランドルフがフィリアの婚約者なのだが、ランドルフは髪と瞳が茶色のフィリアに不満を持っている。 婚約者同士の交流のために設けられたお茶会で、いつもランドルフはフィリアへの不満を罵詈雑言として浴びせている。 伯爵家が裕福だったので、王家から願われた婚約だっだのだが、フィリアの容姿が気に入らないランドルフは、隣に美しい公爵令嬢を侍らせながら言い放つのだった。 「フィリア・ポナー、貴様との汚らわしい婚約は真実の愛に敗れたのだ!今日ここで婚約を破棄する!」 ランドルフとの婚約期間中にすっかり自信を無くしてしまったフィリア。 しかし、すぐにランドルフの異母兄である第二王子と新たな婚約が結ばれる。 初めての顔合せに行くと、彼は車椅子に座っていた。 ※完結まで予約投稿済みです

ポンコツクールビューティーは王子の溺愛に気づかない

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
友好国であるラングフォード王国の美丈夫で有名な王子ルークの元に嫁いで来た、艶やかな長い黒髪と青い瞳のきらめくような美貌で広く知られるウェブスター王国第三王女のエマ。  お似合いの美男美女と国民に祝福されたが、エマはとある理由から終始緊張を強いられていた。どうしても隠しておきたい秘密があったからだ。  そんな彼女の内面の葛藤に気づかぬルークは、子供の出会った頃のエマとあまりに違う雰囲気に困惑していた……。  長年の片思いと己のイメージを守らねばと必死な恋愛ポンコツクールビューティーの姫と、子供の頃から好意を抱いていた姫の変化に戸惑う王子の、結婚から少しずつお互いの仲を深めていくラブコメ。

この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに、なぜか潔癖公爵様に溺愛されています!〜

海空里和
恋愛
まるで物語に出てくる「悪役令嬢」のようだと悪評のあるアリアは、魔法省局長で公爵の爵位を継いだフレディ・ローレンと契約結婚をした。フレディは潔癖で女嫌いと有名。煩わしい社交シーズン中の虫除けとしてアリアが彼の義兄でもある宰相に依頼されたのだ。 噂を知っていたフレディは、アリアを軽蔑しながらも違和感を抱く。そして初夜のベッドの上で待っていたのは、「悪役令嬢」のアリアではなく、フレディの初恋の人だった。 「私は悪役令嬢「役」を依頼されて来ました」 「「役」?! 役って何だ?!」  悪役令嬢になることでしか自分の価値を見出だせないアリアと、彼女にしか触れることの出来ない潔癖なフレディ。 溺愛したいフレディとそれをお仕事だと勘違いするアリアのすれ違いラブ!

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。