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番外編:ジェニーの密会。9
しおりを挟む長い廊下を無言で進むジャンを、ジェニーは戸惑いながら追った。かちゃり、とジャンに与えられている執務室のドアが開けられ、ジェニーは少し緊張しながら入室した。
(上司ではあるけれど……密室に二人きりというのは、良いのかしら?)
ちらりとそんな不安が、ジェニーの胸を掠めたが、頭を振った。いつも落ち着いていて冷静沈着なタイプのジャンが、不埒な真似をする筈が無い。しかし、ジェニーの思いはあっという間に裏切られた。
(え、え、え……何で隣に……。)
二人掛けのソファを進められ、素直に座ったジェニーの隣に、ジャンも腰を下ろした。正面には、一人掛けのソファがあるにも関わらず、だ。
「ジェニー?」
「は、はい。」
いつもより随分近い距離に、ジェニーはドキマギしながら返事をした。
「侍女長に何度か困っていることは無いか聞かれただろう。どうして困っていたのに相談しなかったんだ?」
ああ、あれはそういう意味だったのか、とジェニーは納得した。そして、少し低い声色のジャンに、背筋を正しながら答えた。
「申し訳ありません……。相談してしまえば、侍女長は奥さまにお伝えするかもしれません。そしたら、奥さまは、”一度連れていらっしゃい”と仰る筈です。ですが、あの兄を会わせると、アルバート様が良い思いをしないと考えました。」
ジャンは、先ほど一瞬怒りに満ちたアルバートの顔を思い出し、頷いた。
「後は……。私の勝手な気持ちが原因なのです。」
「ジェニーの気持ち?」
「奥さまは、私の実家が、あの時助けた子爵家だと気付いていないご様子でした。そのことをお伝えしたら、私があの時助けてもらったから、奥さまに懸命に仕えているのだと思われてしまわないか……奥さまと接している内に、そんなことを不安に思うようになりました。」
ジャンは静かに、ジェニーの次の言葉を待っている。
「確かに、実家を助けていただいたことを感謝しておりますが、私が奥さまにお仕えしたいと思うのは、それだけが理由ではないのです。奥さまの侍女となってから、奥さまの勤勉さ、可愛らしさ、厳しいながらも純粋なところ、奥さまの素晴らしさを知ったからこそ、懸命にお仕えしたいと思えたのです。」
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