上 下
10 / 64

10

しおりを挟む
「待ってください。クリストファー様と私が仮に結ばれたとして、お姉様はどうなるのです。公爵家の後を継ぐということですか?」

 マーガレットが詰め寄りながら尋ねてきた。


「まさか。あのお父様が婚約破棄された娘を家に入れてはくれないでしょうね。」

「だったら!駄目です、絶対駄目です!お姉様の居場所が無くなるのなら、この計画は無しですよ!」

「マーガレット、誰が居場所がないと言ったのですか。私はちゃんと次の居場所を見つけています。」

 クリストファーとマーガレットに驚きの表情で見つめられ、アレクサンドラは最上級の笑顔で口を開いた。




「アルバート=キャンベル辺境伯様の元へ参ります。」

 二人の驚きの表情は徐々に呆れ顔に変わり、肩を落として溜め息をつかれた。



「なぁんだ、お姉様ったら散々私たちのためのようなことを言っておいて、全部辺境伯様と結婚するためじゃない。」

「アレクサンドラの騎士好きっぷりは全くぶれることは無いな。」

 二人の小さな反撃に、アレクサンドラは息を吐き、不満げに返した。

「最初にお伝えしたでしょう、三名ともに利のある話だと。」


◇◇◇


「アレクサンドラ、確かにこれは三名に利のある話だと思う。だが恥を偲んで言うが、君がいなくなると国の仕事が回らなくなる。」

「ご心配なく。数年前からクリストファー様の妹君のキャサリン王女を鍛えておりましたの。私がしている公務の殆どを任せられますわ。勿論難しい部分は辺境の地からサポート致します。」

「キャサリンの利は?」

「ネルソン伯爵令息。」

 間髪入れずに答えると、クリストファーは「まだ別れていなかったのか」と小さく呟き、項垂れた。


「ネルソン伯爵家が陞爵出来るよう、いくつか功績を作って手を回しています。侯爵家になれば婚約は難しく無いでしょう。」

「次の王太子は?」

「国王陛下の弟であるベンジャミン様を、と考えています。まだお若いですが、人望も能力もあり、また国王陛下になりたいという野心もあります。ベンジャミン様には既に秘密裏に話をつけています。公務に慣れるまではキャサリン王女に頑張ってもらえるようお願いしています。」


「公爵家はどうだ?アレクサンドラが王太子妃になるから、跡継ぎの事も考えてマーガレットを連れてきた面もあるのだろう。二人していなくなったらどうなる?」

「親戚の中で、本人に公爵家を継ぐ意欲があり、公爵家当主の素質がある者が見つかりましたので、教育係を送っています。」


 抜け目ない計画にクリストファーは目を剥いた。恐らく、他にも手を回している事は膨大にあるだろうに、アレクサンドラは涼しい顔をしていた。クリストファーは白旗を挙げ、アレクサンドラの指示を仰いだ。


◇◇◇

 長い長い作戦会議が終わると、マーガレットはクリストファーに囁いた。

「お姉様、大丈夫かしら?」

「こんなに完璧な計画を立てている本人が失敗するとは思えないけど。」

「そうではなくて」

 マーガレットは視線をキョロキョロと動かし思案しているようだった。




「お姉様、辺境伯様の事になると途端にポンコツになるでしょう?」

 先程思案していたのは、言葉を選んでいたからではないのか、と思ったが口に出すことは出来なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです

早奈恵
恋愛
 ざまぁも有ります。  クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。  理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。  詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。  二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。

人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。 私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。 彼の姉でなく、私の姉なのにだ。 両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。 そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。 寄り添うデイリ様とお姉様。 幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。 その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。 そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。 ※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。 ※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。 ※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

処理中です...