上 下
29 / 31

素敵な場所へ行きましょう

しおりを挟む



「雅也さん、どうしてレシピカード、持ってきていたんですか?」

 父と叔父夫婦と別れ、今日宿泊するホテルに向かう電車の中、私は不思議に思っていたことを尋ねる。

「ああ。もしかしたらお父さんが来るんじゃないか、って思っていたんだ。来ていなくても、叔父さんたちに見せたいと思っていたから。」


 雅也さんの気遣いに、胸が暖かいものでいっぱいになる。私は、この人がくれた分だけで返せているのかなぁ。そんなことを考えていたら、頬を軽く引っ張られる。


「・・・また、変なこと考えてないか。」

「か、かんがえてないでひゅ・・・。」

「じゃあ、何考えてた?」

「雅也さんから、貰うものが多すぎて・・・私は返せているかなぁって。」

 小さく呟く私の言葉に、雅也さんは少し戸惑ったように目を見張った後。



「・・・言っただろう。俺の方が貰いすぎてるって。」


 視線を逸らして、素っ気なく話すあなたが、愛しくて。以前の会話を覚えてくれていることに、満たされて。駅に着くまで、無言のままだったけれど、繋いだ手はずっと強く握られていた。




◇◇◇



「えっ・・・ここって・・・。」

 到着したホテルを見て、私の口はあんぐりと開いてしまった。ホテルの予約は雅也さんがしてくれて、私は叔父夫婦への挨拶やお土産のことで頭がいっぱいで、どんなホテルかも気にしていなかった。


「ここって、高級ホテルじゃないですか・・・。」

 田舎暮らしが長くなった私でも知っている、よくテレビでも紹介されているようなラグジュアリーホテルだ。



「・・・たまにはいいだろ。」

 そっぽを向いた雅也さんは、どこもピカピカ眩しい内装をキョロキョロと眺める私の手を、ぐいっと引っ張りフロントへと進んでいった。


◇◇◇

 


 残り二話となっております。最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

愛する義兄に憎まれています

ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。 義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。 許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。 2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。 ふわっと設定でサクっと終わります。 他サイトにも投稿。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】え?王太子妃になりたい?どうぞどうぞ。

櫻野くるみ
恋愛
10名の令嬢で3年もの間、争われてーーいや、押し付け合ってきた王太子妃の座。 ここバラン王国では、とある理由によって王太子妃のなり手がいなかった。 いよいよ決定しなければならないタイムリミットが訪れ、公爵令嬢のアイリーンは父親の爵位が一番高い自分が犠牲になるべきだと覚悟を決めた。 しかし、仲間意識が芽生え、アイリーンに押し付けるのが心苦しくなった令嬢たちが「だったら自分が王太子妃に」と主張し始め、今度は取り合う事態に。 そんな中、急に現れたピンク髪の男爵令嬢ユリア。 ユリアが「じゃあ私がなります」と言い出して……? 全6話で終わる短編です。 最後が長くなりました……。 ストレスフリーに、さらっと読んでいただければ嬉しいです。 ダ◯ョウ倶楽部さんの伝統芸から思い付いた話です。

結婚二年目、愛情は欠片もありません。

ララ
恋愛
最愛の人との結婚。 二年が経ち、彼は平然と浮気をした。 そして離婚を切り出され……

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

溺愛されて育った夫が幼馴染と不倫してるのが分かり愛情がなくなる。さらに相手は妊娠したらしい。

window
恋愛
大恋愛の末に結婚したフレディ王太子殿下とジェシカ公爵令嬢だったがフレディ殿下が幼馴染のマリア伯爵令嬢と不倫をしました。結婚1年目で子供はまだいない。 夫婦の愛をつないできた絆には亀裂が生じるがお互いの両親の説得もあり離婚を思いとどまったジェシカ。しかし元の仲の良い夫婦に戻ることはできないと確信している。 そんな時相手のマリア令嬢が妊娠したことが分かり頭を悩ませていた。

処理中です...