【完結】社畜が溺愛スローライフを手に入れるまで

たまこ

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 手芸教室の度に、雅也さんが送迎してくれるという提案を、私はすぐには理解できなかった。
 だって、おかしいでしょ!申し訳なさすぎるでしょ! どうにか遠慮するが、雅也さんは黙ったまま、私の言葉に頷いてはくれなかった。「どうせ納品が毎日あるし、瑞樹ちゃんの家の近くまで行くんだから問題なし!運転の練習している間だけでも甘えてほしいわ」と悦子さんも、送迎には大賛成の様子。


 あの手この手で断ろうと試みたが、結局、悦子さんによる「瑞樹ちゃんにしばらく会えないなんて寂しいわ」という泣き落としで、私は陥落してしまったのだった。あーあ。







「雅也さん、おはようございます!今日もお願いします!」


 元気よく、雅也さんの軽トラに乗り込む。送迎をしてもらう申し訳なさと、二人っきりの気まずさに、肩を縮み込ませていたのは最初の一、二回で、あっという間に、慣れてしまった。というより、送迎の時間を少し楽しみにしている自分がいた。



「今日の献上品です!」


 微糖の缶コーヒーを渡す。


「ああ」


 いつもと変わらず受け取ってくれる。本当はもう少しお礼をしたいのだけど、なかなか受け取ってもらえそうになく、今のところドリンクを渡すことで小さなお礼をしているつもりだ。雅也さんは、ブラックやラテ系より、微糖が好き。これは、受け取ったときの表情で、私が導きだしたのだ。ふふん。



 雅也さんは、最初の頃と変わらず、表情は固いし、無口だ。軽トラの中でも、ほぼ私が喋っている。だけど、話題によっては、少し、ほんの少しだけど、表情が緩む瞬間がある。


 野菜の話。

 雅也さんの育てているミニトマトの話。

 悦子さんの話。





 そして、なぜか私の昔話や、他愛ない身の回りに起こった雑談も。


 どうして、私の昔話で、私の身の回りのことで、少し表情が優しくなるんだろう。


 どうしたら、もっと、表情を緩ませることができるんだろう。


 私は、全く懐かない子猫を、手懐けられないか試行錯誤するような感覚で、雅也さんとの時間に嵌まりこんでいた。

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