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しおりを挟む「一緒に馬車に乗るの久しぶりだね。」
私の家もラファエルの家も、学園から徒歩で通える距離だ。だが、ラファエルは「ララが怪我しているから」と、ラファエルの家の馬車を呼んでくれた。ほんのかすり傷だったのに、何度も「大丈夫?」「痛くない?」と尋ねるラファエルは、昔と変わらず優しい人だ。
「う、うん。」
「ララが遅くまで学園に残っているなんて珍しいよね?何をしていたの?」
「そ、それは……。」
「ん?」
私は昔から、ラファエルの優しい瞳に弱かった。あの瞳に見つめられると、いつも嘘が付けなくなる、それほど、私はラファエルの瞳に魅入られていた。
「……卒業してからのことが決まってなくて。」
「うん。」
「縁談も無いみたいだし、就職しようと思ったの。それで先生に資料を頂いて、それを呼んでいたの。」
「……就職?」
ラファエルの大きな耳がぴくりと動いた。ブリトニーのような秀才なら兎も角、平凡な成績の私が就職を目指していることに驚いたのだろう。
「ええ。語学だけは得意なの。」
知ってる、というラファエルの言葉に、どうして彼が私の成績を把握しているのかと内心首を傾げながら、言葉を続けた。
「翻訳の仕事は、年中募集されているみたいだし、私の成績なら大丈夫だと言われたわ。だから、ちょっと遅くなっちゃったけど、仕事を探そうと思って。」
「ララ。」
「家の為に、誰かと結婚できたら良かったんだけど……私みたいなちんちくりんに縁談なんてある訳ないのにね。」
自嘲気味に笑うと、じわりと目に涙が浮かぶ。ラファエルが「ララ。」と呼んだと同時に馬車が止まった。
「家に着いたみたいね。ラファエル、送ってくれてありがとう。また学園で。」
私は早口でそう言うと、ラファエルの顔を見ることも無く、足早に馬車を降りた。早く離れないと、私の早すぎる鼓動が、彼が好きだと叫び始めるから。
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