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しおりを挟む師匠から「話はおしまいだよ。今日はもう眠りな。」と告げられ、眠る準備をする。だけどベッドに横になっても全然眠気は来てくれない。王宮へ行くこと、ピーターとヴァンのこと、頭の中がぐるぐるして疲れてしまった。
「師匠、いっしょに寝てもいい?」
師匠の寝室に顔を出すと、師匠も横になろうとしているところだった。「仕方ない子だね。」と言いながら、師匠は私のスペースを作ってくれた。師匠のベッドに入るとふわりと薬草の香りがした。
「薬草の香りだね。」
「ふん、魔女はみんな薬草臭いのさ。」
自分の服をくんくんと嗅いでみる。自分の匂いはよく分からなくて首を傾げていると「お前は新米魔女だから、まだ薬草臭くは無い。」と言った。
「早く薬草臭くなりたいなぁ。」
「はぁ、お前は本当に変な子だね。」
早く師匠みたいになりたいだけだけど、師匠は呆れたように溜息を吐いた。
「ルーシー。ピーターはお前を騙そうとした訳じゃない。それは分かってやるんだよ。」
「うん。」
「初めてお前と会った時、お前は辛い思いをしてここまで来た。だから、人間より猫の方が仲良くなれるかもしれないって、ピーターなりに考えたんだ。」
ピーターは初めて会った時から私を心配してくれていたんだ。それを知ると、さっき悲しそうに出て行ったヴァンを思い出して私はピーターに謝りたくなって、胸が苦しくなった。
師匠が「他に聞いておきたいことは無いかい?」と聞いてくれたので、私は気になっていたことを尋ねた。
「ピーターとヴァンの性格が違うのはどうして?」
ピーターは素直じゃなくて、天邪鬼で、照れ屋で、だけど優しい。ヴァンはいつも優しくて、甘えん坊。どちらも同じ人(猫?)と言われても、違和感が残った。
「そうだね。人間は、気持ちを我慢したり、素直に伝えることができないこともある。お前も覚えがあるだろう?」
「うん。」
「だけど、動物は自分の気持ちのまま生きている。ヴァンは、ピーターがいつも心の底で思っていることを素直に表現できているだけさ。」
顔が熱くなる。ヴァンは何度も「だいすき」って言ってくれた。それをピーターが思っていたと思うと、私の胸はさっきよりも更にぎゅっと苦しくなった。
「どうした?」
「何かこのへんが苦しい。」
師匠は笑って「そうかい。」と言いながら私の頭を撫でた。
「ルーシー、そろそろ眠るよ。明日の朝、良いものをやろう。お前に必要なものだ。」
次の朝、目が覚めると師匠は花言葉の本をくれた。私は今までにヴァンに貰った花のページを開いた。
ミセバヤの花言葉『大切なあなた』
黄色のヒヤシンスの花言葉『あなたとなら幸せ』
アングレカムの花言葉『いつまでもあなたと一緒』
ヴァンは、ピーターは、ずっとずっと私に大切な気持ちを贈ってくれていた。私の知らないところで、最初からずっと私を想ってくれていた。
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