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しおりを挟む「し、師匠?」
恐る恐る師匠を呼ぶと、師匠は悲しそうに顔を顰めた。
「……一緒に行ってやりたいけどね、私はあそこには入れないんだ。」
「……そうなの?」
師匠は重たく頷いた。心配そうな瞳から、師匠だって苦しい思いをしていることが伝わる。だけど『落ちこぼれ』と言われてきた私は、一歩を踏み出す勇気が出ない。
「師匠、ヴァンも王宮には入れないの?私が王宮にいる間ずっと……?」
ヴァンと何日か離れているだけでも寂しくなってしまうのに、いつまでか分からない王宮での滞在は恐ろしく感じた。
私の言葉に師匠とピーターは顔を見合わせる。師匠は小さく息を吐いて「……もう、いいだろう。」と呟いた。ピーターは不安そうに瞳を揺らした後、私に向かって「ごめん。」と言った。
「え……?ピーター?」
目の前のピーターは、ポンッと大きな音を立てた後で見えなくなってしまった。代わりに私の前にヴァンが座っている。
「ヴァン?ピーター、ピーターはどこなの?」
「……ルーシー。ごめん、おれがピーターなんだ。」
◇◇◇◇
混乱する私に、師匠は温かいココアを淹れて話し始めた。
「本当はピーターから聴いてほしいんだけどね。細かい話はちゃんと本人から聴くんだよ。」
さっきまでそこにいたヴァン、いやピーターはいない。私が混乱しているのを見て、しょんぼりと「おれがいないほうがいい」と出て行ってしまった。
ピーターは、生まれた頃から意図せず黒猫に変身してしまう特異体質だった。
この国ではピーターのように動物に変身する体質は忌み嫌われて、ピーターは両親が住む家とは別の場所に幽閉されてしまったらしい。
「そんな……。」
マグカップを持つ手に力が籠る。師匠は頷いて説明を続けた。
「何年か前に、ピーターの伯父がそれに気付いたんだ。そいつが助けてくれて、今は一緒に暮らしているから安心しな。」
「そう……良かった。」
「ここに取りに来る薬も、動物に変身しないようにコントロールするためのものだ。ピーターの伯父が……たまたま私と知り合いでね、頼って来たんだ。」
「そうだったの?」
「ああ。だがピーターの家は王都だからここまで通うのは難しい。それで、猫になっている間は私の使い魔になる契約をして好きな時にこの森に転移できるようにしたんだ。」
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