【完結】落ちこぼれと森の魔女。

たまこ

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 コツン コツン。


 窓から小さな音が聞こえる。私は大喜びで窓を開いた。


「ヴァン!来てくれて良かった!」


「ん?」


「今日はね話したいことがいっぱいあるの。」


 いそいそとベッドに入り、ヴァンのスペースを作るとヴァンもすぐに横になった。私が矢継ぎ早に話すのをヴァンは時折頷きながら聞いていた。


 ピーターがチェリータルトというスイーツを持ってきてくれたこと。

 ピーターは何だか怒った顔で、ルーシーにとびっきり大きなサイズにカットしたチェリータルトを渡してくれたこと。

 初めてのチェリータルトは甘酸っぱくて、何よりクリームが言葉にできないくらい甘くてふわふわでほっぺたが落ちそうだったこと。

 チェリータルトはまだ半分残っていて、師匠の魔法の箱で保管されているので明日も食べることができること。


「よかった。」


「え?」


「ルーシーがうれしそうにしていると、すごくホッとするんだ。」


「えへへ。」


 私が照れ笑いを浮かべると、ヴァンは私の手にスリスリと顔を摺り寄せた。



「あ、そうだ。」


「ん?」


 枕元に置いていたしおりを取り出した。師匠に習い、押し花にしたミセバヤの花を挟んでいる。勿論、あの日ヴァンがプレゼントしてくれたものだ。


「この間はミセバヤのお花ありがとう。とってもとっても嬉しかった!」


「ああ。こんなにきれいにしてくれたんだな。」


「へへ、師匠に教えてもらったの。」


「よくできている。」


 ヴァンは興味深そうにしおりをじっくり見ていた。


「だけどね……ヴァン、無理してない?」


「え?」


「ミセバヤのお花はこの近くにはないって師匠が言ってた。遠くまで行って、帰ってくるなんて大変でしょう?」


 それに、ヴァンの小さな体で綺麗に花を摘み、屋根裏部屋に運ぶことはとても負担になっているように思えた。


「ルーシー。しんぱいいらないよ。」


「でも……。」


「おれは『つかいま』だから、いどうしたり、はなをみつけたり、なにかをはこぶことは、たいへんじゃないんだ。」


「そうなの?」


「うん。それに……。」


 ヴァンはしょんぼりと顔を俯かせた。そんなヴァンを見るだけで私まで胸が痛くなった。


「ほんとうはルーシーにもっとプレゼントしたい。おれ、ルーシーのことだいすきだから。……だけど、ちいさなはなしかもってこれなくてごめん。」


「ヴァン!」


 悲しそうに顔を歪めるヴァンを、ぎゅっと強く抱き締めた。あの初めて会った日の時のように。ぽろぽろと涙が溢れた。


「ルーシー……。」


「ヴァンの馬鹿……。お花とっても嬉しかったのに……。それに、それに、プレゼントなんて……っ」


 言葉にならない私の気持ちを、ヴァンはすぐ理解してくれたようで「ごめん。」と言い、ペロペロと私の涙を舐め始めた。涙は全然止まってくれず、私は泣き疲れてそのまま眠ってしまっていた。


 朝、目を覚ますとやっぱりヴァンはいなくて代わりに黄色の可愛い花が机に置かれていた。また師匠に何の花か尋ねると「これはヒヤシンスだよ。何でこんな時期に……。」とブツブツ言っていた。


 花瓶に飾った黄色のヒヤシンスを見る度に、私は寂しくて、嬉しくて、心をぎゅっと掴まれるような不思議な感覚に陥った。







 黄色のヒヤシンスの花言葉『あなたとなら幸せ』


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