【完結】落ちこぼれと森の魔女。

たまこ

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15(過去編)

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「働かざる者食うべからずだよ。」


 森の魔女にそう言われても、ルーシーは嫌がることなくむしろ喜んで家事に取り組んだ。森の魔女の家にいて良いと思える役割があることを喜んだのだ。祖母から習っていた家事が大いに役に立った。だが、森の魔女がルーシーにさせたのは家事だけではなかった。


「畑に水をやりに行くよ。」


「はい。えっと、ジョウロは……。」


 森の魔女はじっとルーシーを見つめた。


「何言っているんだい。ジョウロなんて要らないよ。」


「え、でも……。」


「魔法で水やりしたら良いじゃないか。」


「わ、私は……。」


 言葉を詰まらせるルーシーの頭に、森の魔女はポンと手を置いた。


「別にできなくても良いんだよ。だけどね、チャレンジしないまま諦めるのは駄目だ。」


(チャレンジ……。してみても良いの?『落ちこぼれ』の私が?)


 ふわふわと落ち着かない気持ちになって、ルーシーは森の魔女を見つめた。


「ほら。行くよ。」


 森の魔女の声にハッとし、慌てて畑へ出る。森の魔女は「雨が降るイメージをするんだ」と後ろに立つルーシーへ振り向かずに言った。


(雨……。雨……お願い、降って。)


 その瞬間、今まで快晴だったのにざあざあと嵐のような大雨が降り始めた。


「うわ……ちょ、ちょっと……」


 あまりに降りすぎていて戸惑うルーシーだが、森の魔女は慌てることなく片手を振った。すると、すぐにまた快晴と戻った。


「ほらね。諦めるなんて勿体ないだろう。」


 ルーシーの目にじわりと涙が浮かんだ。「……お前の両親に知らせたいかい?」と森の魔女は尋ねたが、ルーシーはすぐ首を振った。魔力がないことを散々責めてきた両親に、自分が『落ちこぼれ』じゃなかったと言ってやりたい気持ちが無い訳ではない。だけど……。



「……私、ここにいたい。」


「……っ、ああ、そうしたらいい。」


 ルーシーの居場所は祖母の隣だけだった。今だって、その思いに変わりはないけれど。『落ちこぼれ』と呼ばれたルーシーは自分の居場所を自分の力で見つけた。

 それから、ルーシーが森の魔女を『師匠』と呼ぶまでにはそう時間はかからなかった。
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