【完結】落ちこぼれと森の魔女。

たまこ

文字の大きさ
上 下
13 / 47

13(過去編)

しおりを挟む


「さて。お前のばあさんにお前が目を覚ましたって手紙を出してこようかね……お前はまだ駄目だよ。足の怪我が治るまでは大人しく寝てな。」


 起き上がれるようになったらいくらでも書けばいいさ、と森の魔女は言った。


「だけど、目を離したら無理しそうなガキだねぇ。」


「そんなこと……。」


 コツンコツン。

 窓の方から小さな音がした。


「ああ。ちょうどいいところに帰って来た。」


「みゃあん!」


「か、かわいい……!」


 森の魔女が窓を開け入って来たのは毛並みの良い黒猫だった。ルーシーは絵本で何度も見て大好きになった猫を間近で見ることができ胸を高鳴らせた。


「やっとめがさめたのか?」


「しゃ……しゃべった……!」


 目を丸くしているルーシーを見て、森の魔女は苦笑いを浮かべた。


「こいつは……ヴァンは、普通の猫とは違うのさ。」


「へ?」


「私の使い魔なんだよ。だから口が利けるんだ。ヴァン。私はちょっと出てくるからこの子が無理しないよう見ていてくれ。」


「ん。」


「ルーシー。すぐ戻って来るけど、大人しく寝ているんだよ。」


 森の魔女の言葉にルーシーは小さくこくこくと頷いた。それを確認した後、森の魔女はふわりと消えてしまった。



「き、消えた……。」


「ゆうびんやまで、とんでいったんだ。」


「それならおばあちゃんのところへ行けないの?」


「ルーシーのおばあちゃんにはまだあえないみたいだ。だからてがみにしたんだ。」


 先程森の魔女が説明していた、「お見舞いは出来ない」の言葉を思い出し、ルーシーの胸は痛んだ。


「……ルーシー。いっしょにねてもいい?」


「へ?も、もちろん!いいよ!」


「ん。」


 ヴァンはピョンとベッドの上に上がる。ルーシーが遠慮がちに持ち上げた布団にいそいそと入り、身体を寄せた。


「ルーシー、ヨシヨシして。」


「い、いいの?」


 目を輝かせたルーシーにヴァンは頷いた。おずおずと触れるとヴァンの毛並みは艶々で、触れると心地良い。ルーシーは飽きることなくヴァンを撫で続けた。



「……ヴァン。」



「ん?」



「森の魔女ってすごい魔女なの?」



 ルーシーの疑問に、ヴァンは大きく頷いた。



「ああ。くにいちばんのまじょだよ。だれもかなわないんだ。」


「ルーシーがもりにはいったとき、すぐきづいたんだ。だからもりのなかでたおれていたルーシーをみつけられたんだ。」


「ルーシーとおばあちゃんに、ルーシーのおやがちかづかないよう、まほうをかけたんだよ。だからもうだいじょうぶだ。」


 ルーシーは頷いた。ずっと離れに閉じ込められていたルーシーだが、祖母に魔法について一通り教えてもらっていた。さっき目の前で消えた森の魔女。あんな風に今いる場所から一瞬で移動できるような魔法をルーシーは聞いたことがない。あの魔法だけでも森の魔女が特別だと分かる。





「……そんなすごい魔女の所に、私……いていいのかな?」


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

わたしの師匠になってください! ―お師匠さまは落ちこぼれ魔道士?―

島崎 紗都子
児童書・童話
「師匠になってください!」 落ちこぼれ無能魔道士イェンの元に、突如、ツェツイーリアと名乗る少女が魔術を教えて欲しいと言って現れた。ツェツイーリアの真剣さに負け、しぶしぶ彼女を弟子にするのだが……。次第にイェンに惹かれていくツェツイーリア。彼女の真っ直ぐな思いに戸惑うイェン。何より、二人の間には十二歳という歳の差があった。そして、落ちこぼれと皆から言われてきたイェンには、隠された秘密があって──。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

【完結】アシュリンと魔法の絵本

秋月一花
児童書・童話
 田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。  地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。  ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。 「ほ、本がかってにうごいてるー!」 『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』  と、アシュリンを旅に誘う。  どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。  魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。  アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる! ※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。 ※この小説は7万字完結予定の中編です。 ※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。

魔法が使えない女の子

咲間 咲良
児童書・童話
カナリア島に住む九歳の女の子エマは、自分だけ魔法が使えないことを悩んでいた。 友だちのエドガーにからかわれてつい「明日魔法を見せる」と約束してしまったエマは、大魔法使いの祖母マリアのお使いで魔法が書かれた本を返しに行く。 貸本屋ティンカーベル書房の書庫で出会ったのは、エマそっくりの顔と同じエメラルドの瞳をもつ男の子、アレン。冷たい態度に反発するが、上から降ってきた本に飲み込まれてしまう。

【完結】だからウサギは恋をした

東 里胡
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞応募作品】鈴城学園中等部生徒会書記となった一年生の卯依(うい)は、元気印のツインテールが特徴の通称「うさぎちゃん」 入学式の日、生徒会長・相原 愁(あいはら しゅう)に恋をしてから毎日のように「好きです」とアタックしている彼女は「会長大好きうさぎちゃん」として全校生徒に認識されていた。 困惑し塩対応をする会長だったが、うさぎの悲しい過去を知る。 自分の過去と向き合うことになったうさぎを会長が後押ししてくれるが、こんがらがった恋模様が二人を遠ざけて――。 ※これは純度100パーセントなラブコメであり、決してふざけてはおりません!(多分)

処理中です...