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11(過去編)
しおりを挟む今から半年前。
思えばその日の朝から祖母の様子が可笑しかった。これまでルーシーが起きている間に祖母が不在になることは無かったが、その日はルーシーの両親が暮らす本邸へ行ってくると言って、なかなか帰ってこなかった。
ルーシーがいつものように絵本を読んで祖母の帰りを待っていると、祖母が血相を変えて離れに飛び込んできた。
「ルーシー……よく聞くんだよ。今からここを出て行く。」
「え?」
「本当に大切なものだけバッグに詰めるんだよ。すぐ出るから急いで!」
聞きたいことがいっぱいあったルーシーだが、声を荒げる祖母を初めて見たルーシーは言葉が出てこなかった。言われた通り、大事なものだけ掻き集めた。
祖母が作ってくれたワンピースやお気に入りの絵本、祖母が刺繍を入れてくれたハンカチだ。そして、いつも肌身離さず持っている祖母から貰ったお守りを首に下げる。
「行くよ。ルーシー。」
祖母はルーシーの手を引き、小走りで離れを後にした。離れの中で暮らし外に出ることのない、体力の無いルーシーには苦しい道中だったが弱音を吐くことは無かった。
途中、馬車に乗り込み、何日も揺られていた。もしこれがただの外出ならルーシーはどれほど喜んだだろうか。だが、祖母のただならぬ雰囲気に、ルーシーは言葉を飲み込んでいた。
揺れる馬車の中で身体中が痛くなってもルーシーはじっと耐えていた。隣に座る祖母の方がずっと辛そうに思えたからだ。
馬車は国の端の街に辿り着いた。ふらふらと降りる祖母をルーシーは必死で支えた。祖母は街の外に向かい一心不乱に歩き続け、ルーシーは必死で祖母に着いて行った。
二人とも足は傷だらけになっていた。祖母はある森の前で立ち止まり、その場に蹲った。
「……おばあちゃん?おばあちゃん!」
「大丈夫、大丈夫だよ。ルーシー。いいかい?この奥には、森の魔女がいる。この国一番の魔女だよ。」
「おばあちゃん……?」
「ルーシー、今から森の魔女のところまで一人で行くんだ。そしたらもう大丈夫だ。」
「ひ、一人でなんか行かない!私、おばあちゃんといるわ!」
「ルーシー。おばあちゃんはもう歩けそうに無いんだよ。だから……。」
祖母はルーシーを優しく抱き寄せた。温かな空気がルーシーを包む。「大丈夫。ルーシーなら辿り着けるよ。」そう笑った後、祖母は気を失ってしまった。
「おばあちゃん!おばあちゃん!」
ルーシーは祖母に縋り付き、わんわんと泣いた。泣いて泣いて泣いて、涙が枯れた頃、震える足で立ち上がった。
「だ、誰か助けを呼ばないと。」
祖母は命が尽きた訳では無い。ぐったりしているが、呼吸は確認できる。ルーシーはここまでの道中を思い返した。もう長いこと人家を見ていない。
「森の魔女のところへ。」
最後に祖母にぎゅっと抱きつくと、ルーシーは走り出した。入り組んだら森の道をルーシーは何故だか元々知っているかのように迷いなく進んで行った。顔や腕に傷がつこうと、足が血だらけになり悲鳴を上げようともルーシーは走ることを止めなかった。
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