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しおりを挟む「ふぅ~~綺麗になったなぁ。」
私はキョロキョロと周りを確認した。今日は畑の草むしりをする日。イチゴの苗やハーブ、野菜の周りに生えている草を抜いて綺麗にした。
「おい、チビ。何泥だらけになってんだよ。」
「ピーター!」
駆け寄るとパサリとタオルを投げられ受け取ると顔を拭くように言われる。ゴシゴシと顔を拭くと顔にまで泥が付いていたことが分かる。
顔をスッキリさせた後、ピーターの方を見る。ピーターの手には大きな白い箱が抱えられていて思わず期待してしまう。
「ピーター。その箱って……。」
お土産?と目を輝かせると、ピーターは何とも言えない表情を見せた後で小さく頷いた。
「ああ、ここでは開けられねーからばあさんのとこ行くぞ。」
「うん!」
ピーターは白い箱を抱えていない方の手を差し出した。ピーターの私より大きな手に引かれて、師匠の家まで戻った。お土産が楽しみで足取りが軽くなる。
「ルーシー、終わったのかい?……ああ、ピーターも来たんだね。」
「うん、終わったよ!ピーターがお土産あるって!」
「お前はうるさいね。」
ピーターは白い箱を開け、中身を見せてくれた。
「わぁぁ、綺麗……。」
箱の中には茶色の丸い生地の上に沢山のキラキラした赤い実が敷き詰められている。ピカピカと輝くそれは、宝物みたいだと胸が躍った。
「チェリータルトだ。」
ピーターはぶっきらぼうに、赤い実がフルーツのチェリー、茶色の生地はクッキーのようなもの、中にはクリームがたっぷりだと説明した。
「クリーム?!クリームが入っているの?!」
思わず声を上げた私にピーターは神妙に頷いた。
「ずっと食べてみたかったんだぁ~。」
絵本で何度も見た、クリームたっぷりのお菓子。ずっと夢見ていたけれどまさか本当に食べられる日が来るとは思わなかった。
「……っ、ルー」
「ルーシー、先に風呂に入って来な。泥だらけじゃないか。」
汚れたやつに食べさせるものは無いよ、と師匠は私をジロリと睨んだ。
「師匠!私の分、先に食べないよね?」
「馬鹿だね!さっさと行きな!」
「はぁい。」
師匠に怒られた私は、さっさと浴室へと向かった。
「なぁ、ばあさん。」
「あの子を可哀想な目で見たら承知しないよ。」
「分かってる、分かってるけど……。」
ピーターはルーシーの境遇を思うと胸が痛かった。
「チェリーはこの国の名産だろ?高級な品種は貴族しか食べられないけど、それ以外は平民だって安価で食べられる。なのにルーシーはチェリーを知らないみたいだった。」
クリームだってそうだ。貴族が食べるクリームと平民が食べるクリームは、確かに味に大きな差があるけれど食べたことが無い平民の方がずっと少ないだろう。それなのにルーシーは「ずっと食べてみたかった」と言った。
「さあね。私にだって詳しくは分からないよ。今言えることは、私やお前が想像するよりもずっと酷いところでルーシーは生きてきたんだ……長い間ね。」
「そんなことって……。」
「勿論許されないことだ。だけどね、そのことで怒りを燃やすよりもずっと大事なことがあるよ。」
長い時間、傷つけられた心は簡単に癒ることはない。今、ルーシーに必要なことは可哀想だと同情することでも、これまでの境遇を憎むことでも無い。
今あるルーシーの幸せを守ることだ。
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