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しおりを挟むパチリと目を覚ます。夜、目を閉じるまで私の枕の隣に丸くなっていたヴァンはやっぱりいない。ヴァンが寝ていた場所に手を置くと、すっかり冷たくなっていて私の目にジワリと涙が浮かんだ。
「ヴァン……。」
たまに来てくれるピーターとのお別れの時は笑って「またね!」って言えるのに、ヴァンがいなくなってしまった朝はとっても寂しくて悲しくて泣きたくなる。
また数日したらひょっこり来てくれる筈なのに。師匠の家に来てから、私は随分と泣き虫になってしまった。
ふと机の上を見ると、赤いものがぼんやりと見えた。慌てて涙をグイッと拭うと、そこには赤い花が置かれていた。小さな花がいくつもあって、大きな花になっている。
「ヴァンだ!」
ヴァンからの初めてのプレゼントだ。さっきまであんなに悲しかった私の心は急に嬉しさでいっぱいになって、花を潰さないように優しく包むように持つと、転がるように下の部屋まで降りて行った。
「師匠!」
朝食の準備をしている師匠の背中に声を掛ける。
「こら。朝はまず、おはようだろ?」
「おはよう、師匠!あの、あのね!」
あまりに慌てていたから、師匠は怪訝そうに私を見つめた。
「どうしたんだい?」
「これ!これ、ヴァンがくれたの!」
私は慎重に手を開き、赤い花を見せると師匠は少しだけ意外そうに口を開いた。
「ミセバヤの花だね。こんな時期に珍しい。」
「そうなの?」
「ああ。本当は秋の植物だからね。森の中の寒い場所にでもあったんだろうよ。」
今は初夏の時期だからここらには無いよ、と師匠は付け加えた。つまり、ヴァンは遠くまでこの花を探しに行ってくれたんだ。私にプレゼントするために。そう思うと嬉しくて胸の辺りがふわふわした。
「師匠。どうしたら長く咲いてくれる?良い魔法ないかな?」
「ふん。そんなことに魔力を使おうとするんじゃないよ。」
「だって……。」
ヴァンからの初めてのプレゼント。出来ることならずっと咲いていてほしい。私が俯いていると師匠が小さな花瓶を差し出した。
「ほら、これに水を入れて飾っておきな。」
「師匠……。」
「いいかい?切り花なんてものは、すぐ枯れちまうんだ。一日二回、朝晩水を換えてやりな。」
「うん。」
「……それで枯れる前に押し花にでもすりゃいいだろう。やり方は教えてやるから今は花瓶に飾ってな。」
「師匠!」
嬉しくて、思わず大きな声を出すと師匠は「うるさいガキだね。」と呆れたように言い、花瓶に水を入れるように促した。
ルーシーが洗面所に走る背中を見ながら、師匠は「キザな猫だよ。」とウンザリしたように呟いていた。
ミセバヤの花言葉『大切なあなた』
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