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しおりを挟む「たのしかったねぇ!」
「楽しかったね!颯ちゃん、リッキーとも仲良くなれたね」
「うん!」
リッキーと交流したり、葉名の母が颯のためにと準備していたお菓子を沢山食べたりと過ごしていたらあっという間に帰る時間になっていた。
「はなちゃんのママ、またきてもいい?」
「もちろん!遊びに来てくれたらとっても嬉しいわ」
葉名の母の言葉に颯は照れ笑いを浮かべ頷いた。玄関で靴を履き、別れの挨拶をしていると颯が小さく「あ!」と漏らした。
「颯ちゃん?どうしたの?」
「みぃが……!」
またしてもいつの間にか現れた三毛猫は颯の足に顔をすりすりと寄せていた。
「今日はごめんね、って言ってるのよ」
「みぃ、ごめんねできてえらいね」
颯が三毛猫の頭を撫でる。三毛猫は不本意そうに「にゃあ」と鳴くと、そっと離れわざわざ旺也の足を踏みつけて去って行った。三毛猫と仲直りできた颯が嬉しそうに微笑み、帰りの車内でもずっと三毛猫の話ばかりしていた。
「猫があんなに表情豊かだったなんて知らなかったよ」
「人間みたいですよね」
帰宅して風呂に入ると電池が切れたかのように眠った颯を布団に寝かせた後、旺也と葉名はリビングでお茶を飲んでいた。
「咬まれたところ、大丈夫でした?」
「ああ、跡も残ってないよ」
「良かった……今日はありがとうございました。旺也さんが来てくれて母も嬉しそうでした」
「それなら良いけど……緊張した」
「ふふ、そうですよね」
葉名はふんわりと笑って頷いた。
「だけど、行って良かったよ」
「そう言って貰えると嬉しいです」
「葉名さんとみぃ、ちょっとだけ似てた」
「えぇ?」
葉名が不満そうに眉間に皺を寄せた顔を見て旺也は思わず噴き出した。
旺也は、葉名が優しく笑っているところばかり見ている。旺也が熱を出した時には怒ったり、旺也が泣いた時には一緒に泣いたりしたこともあったが、その時以外は穏やかな笑顔ばかりだ。
颯が泣いたり怒ったりして葉名を困らせる時、確かに困った顔をしてはいるがあんまり困っていないのだと分かる。颯が泣いていても怒っていても、可愛く思っているのが伝わるからだ。そのせいか颯の癇癪もあまり長引かない。
だけど今日の葉名は違った。実家にいる時の姿がその他と違うのは当たり前だが、母親との会話の様子や三毛猫に対する呆れ顔、いつもよりほんの少し幼く見える瞬間、それらを見て旺也は嬉しくなった。
「葉名さんのこんな顔、もっと見てみたいよ」
「な……っ」
彼女の眉間の皺を指でなぞると葉名の顔は一気に赤く染まった。
「真っ赤だ」
「うぅ……狡い」
葉名は赤くなった顔を隠すかのように旺也の胸に顔を寄せた。どれくらいそうしていただろう。葉名が身動ぎ、顔を上げる。その瞳には哀しみが滲んでいた。
「どうした?」
「……旺也さん、私……結婚する前に伝えなくちゃいけないことがあるんです」
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