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しおりを挟む庭を出て、辺りを見渡す。車の影に隠れるようにしゃがみ込んだ颯が肩を震わせているのを見つけた。
「颯」
「……っ」
旺也が抱き上げると、わんわんと大きな声を上げて泣き始めた。
「み、みぃが……っ、いじわる、したっ……」
「そうだな」
猫が意地悪なんて大袈裟だと、さっきまでの旺也なら思っていただろう。だが、三毛猫が颯を一瞥したあの時、彼女は優越感をたっぷり浮かべていたのだ。まるで「葉名は私のことが好きなのだ」と自慢するかのように。
「みぃ……そうにっ、いじわるした……っ、きらい、きらいっ」
「確かにさっきのみぃは意地悪だったな」
旺也の言葉に大粒の涙を流しながら何度も大きく頷く颯を見て、思わず苦笑してしまう。
「みぃは寂しかったのかもな」
「みぃ……さびしい?」
「ああ。俺たちはいつも葉名さんと一緒だろ?だけど、みぃはどうだっただろう?」
「……」
「もしかしたらずっと葉名さんを待っていたのかもしれないな。それでやっと会えたから、ずっと一緒にいた俺たちについ意地悪したくなったんじゃないか」
「みぃ……」
颯は暫く考え込んだ後、ぽつりと零した。
「あのね、はなちゃんがね……」
「うん」
「さびしいときにいじわるしたくなったり、おこりんぼになることがあるんだよって」
「なるほど、そうかもしれないな」
「だから、そんなときはいっぱいだっこするよって」
「ああ」
「みぃもさびしかったんだね」
颯は袖で涙を拭うと真面目な表情を浮かべ、旺也を見つめた。
「どうした?」
「おうちゃん、ごめんなさい」
「うん?」
「ママが……てんごくいったあと、そう、おうちゃんにいっぱいいじわるしたでしょ」
「……颯」
「ごめんね」
澪が亡くなった後、颯が荒れていた頃のことを言っているのだ。毎日泣き叫ぶ彼は時々旺也を叩いた。力のコントロールができない彼からの攻撃で、旺也の身体に痣ができたのも一度や二度ではない。
「颯、俺は怒ってない。颯は何にも悪くないんだ」
「だけど、おうちゃんにいっぱいパンチしたよ」
「寂しかったんだろ?」
小さく頷く颯へ旺也は笑ってみせた。
「じゃあ、次からは抱っこしよう。意地悪したくなったら抱っこしてって教えてくれ」
「……わかった」
「俺が寂しい時は颯が抱っこするんだぞ」
「えぇ~おうちゃん、あかちゃんみたい」
「なんだと?」
今まで泣いていたのを忘れたかのように、颯は声を上げて笑った。
ずっと一人で気にしていたのだ。何も気にする必要なんてないのに、この小さな身体で思い悩んでいたんだ。葉名に出会うまでの旺也だったら、颯の気持ちを聞き出せなかっただろうし、励ますこともできなかっただろう。葉名への感謝を膨らませながら、颯と二人、彼女の元へと戻った。
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