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しおりを挟む「……時間を取ってくれてありがとう」
仕事を退勤し、一時預かりから颯を迎えるまでの僅かな時間に葉名に来てもらった。大事な話をするのだから、きちんとしたお店などを予約すべきかもしれないと一瞬過ったがそれは何だか自分らしくない気がしていつも二人が話しているダイニングテーブルで向かい合った。
「いえ」
彼女の硬い表情に焦りが込み上げてくるが、ぐっと拳を握ると小さく息を吐いた。葉名から結婚の申し出があった後も彼女はそれまでと変わらず颯と旺也に会いに来ていた。何もなかったかのようにいつも通り振る舞っていた彼女の心を思うと居たたまれない。
「この前の返事をしたくて、待たせてしまってごめん」
「……いえ」
「……えっと、俺、葉名さんに会うまで本当に駄目な保護者で、いや今も駄目だと思ってるんだけど」
「え」
「颯が泣くのにうんざりしてたし、優しくなんて全くしてやれなかった」
「……それは、誰も悪くありません。旺也さんが駄目なんてこと、無いです」
「うん。葉名さんがそうやって、俺と颯を励ましてくれて、元気になれる言葉を惜しみなくくれて、すごい嬉しかった。本当に救われたんだ」
涙を浮かべる彼女へ言葉を続ける。
「俺は葉名さんに助けてもらってばかりだけど……葉名さんの力になりたいって気持ちもどんどん大きくなっていったんだ。だから……俺も葉名さんの家族になりたい」
「へ」
「結婚しましょう」
目を丸くして暫く硬直していた葉名は徐に立ち上がると、旺也が座る椅子の隣までやってきた。「立って」と彼女の言われるがまま、旺也が立つと胸元にぽすり、と頭を預けた。
「……断られるかと思った」
「え」
「……告白をお断りする時に、先にポジティブなこと言うのってセオリーじゃないですか」
「え……ごめん、知らなかった。告白とかされたことなくて」
「うそ?」
「ほんとだよ。彼女もできたことないし」
葉名は腕を旺也の背中に回し、顔を上げた。「ふーん」と口を尖らせた彼女はどことなく嬉しそうに見える。
「旺也さん、こんな風に触れられるの嫌じゃないですか?」
「嫌じゃないよ」
「じゃあ」
葉名は何かを企んだかのようににっこりと笑った。
「これから、覚悟していてくださいね」
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