【完結】君たちへの処方箋

たまこ

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「うーん、起きるかぁ」

 土曜日の朝、いつもよりずっと遅く目を覚ました葉名は布団の中で伸びをした。今日は旺也の家へ行く日ではないがあんまりのんびりもしていられない。明日は颯とたっぷり遊ぶ日だ。平日も会っているが、時間を気にせず遊べるのは休日しかない。そのため、今日の内に溜まりがちになっている家事を終わらせなければならないのだ。

 バシャバシャと顔を洗っていると、ピンポーンとインターフォンの音が響いた。モニターを確認すると隣人が写っており葉名は首を傾げた。彼女とはすれ違えば挨拶する程度の関わりしかない。わざわざ葉名の家を来訪する理由が思い当たらなかった。

「はーい」

 葉名が玄関の扉を開けると困り顔の隣人が立っていた。

「あの……」

 ちらりと足元に視線を移す彼女に釣られて葉名も足元へ視線を動かし、そして目を丸くした。

「え……な……颯ちゃん?どうして……」

「……っ、うっ、はなちゃ……」

 颯は必死に堪えていた涙が溢れだし、葉名の足に縋りついた。慌てて抱き上げると、安心からか大声で泣き出した。

「散歩をしていたら、この子が一人でお家から出てきたところにバッタリ会って」

「一人で……」

 隣人の言葉に葉名はゾッとし全身に鳥肌が立った。旺也の家から葉名のアパートまでは数軒ほど離れているご近所さんの距離だ。だが、その道中は車も多く歩道も狭い。そして万が一不審者に会っていたら……様々な可能性が一瞬で頭を駆け巡り、血の気が引いた。

「声を掛けたらうちのアパートに行くって言うので、一緒に歩いてきました」

 彼女は、葉名が颯と旺也と歩いているところを度々見掛けていたらしい。それで声を掛け、付き添ってくれたようだ。

「そうだったんですね。何てお礼を言っていいか……本当にありがとうございます」

 深々と頭を下げると彼女は恐縮しながら去って行った。彼女の背中を見送りながら、先程より涙が落ち着いた颯の頭を撫でる。

「颯ちゃん、一体何があったの?」

「……っく、はなちゃ」

「うん」

「お、っおうちゃんが……おうちゃんがぁ……っ」

 葉名は息を呑み、颯を抱えたまま家を飛び出した。

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