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しおりを挟むあぁ、しまった……ぼんやりとした意識の中で旺也は後悔していた。
秋に入り朝夕が冷え込むようになったこと、颯の幼稚園手続きで忙しくしていたこと、幼稚園入園前の練習として一時預かりを利用するようになり短時間だが仕事に復帰したこと、様々なことが重なり旺也は昨夜から体調を崩していた。
翌日は土曜日だし、ゆっくり休めば大丈夫だろうと甘く見ていたことが仇となった。翌朝目を覚ました時には悪化しており、体温を測らずとも高熱だと分かる。身体が重く、身を起こすことも叶わなかった。
昨夜の内に葉名に連絡を入れておけば彼女はすぐ来てくれただろう。だが連絡は入れておらず、今日は旺也宅に来る日でもなかった。働かない頭で今日をどう乗り切るか考えていた。
「おうちゃん、おなかすいたよ」
随分前に目を覚ましていただろう颯がとうとう待ちきれずに旺也を起こしにやって来た。
「……う、ん」
「おうちゃん?」
すぐに起き上がらない旺也の顔をぺちぺちと叩く。息を荒くし汗をびっしょり掻いている旺也を見て、颯なりに只事ではないと感じたようだ。
「おうちゃん、おうちゃん、だいじょうぶ?」
「……っ」
大丈夫だと、心配するな、と言ってやりたいのに喉が張り付き、声が出ない。不安のあまりぽろぽろと泣き出した颯の頭を撫でてやることもできない。
「おうちゃん……」
暫く泣いていた颯は袖で涙を拭うとのろのろと立ち上がった。箪笥の引き出しを開け、お気に入りのTシャツとズボンに着替える。Tシャツには颯の好きなヒーロー戦隊が描かれている。一時預かりを不安がる颯へ「これを着ていけば力が出るからね」と葉名がプレゼントしてくれたものだ。その上からいつも着ているジャンパーを羽織った。
「おうちゃん、まっててね」
旺也の耳元でそう囁くと玄関へ向かう。鍵もドアノブも颯の身長では届かないので、洗面所から颯専用の踏み台を運んできた。お気に入りの光る靴を履き、踏み台に乗る。カチャンと音を立て鍵を開け、玄関の扉を開けると颯は走り出した。
大丈夫、目的の場所は見えている。溢れ出しそうな涙を必死に堪え、颯は必死に足を動かした。その時、見知らぬ人物から声を掛けられた。
「ねぇ、一人でどこに行くの?」
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