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しおりを挟む「夕食までいただいてしまってすみません」
「いや、こちらこそ無理に引き留めて申し訳ない」
夕食の時間になり帰宅しようとした葉名を颯は必死で止めた。偶々夕食のメニューがカレーライスだったこともあり、余分に作っていたため旺也からも彼女を誘った。恐縮する彼女だったが旺也の作ったカレーを一口食べるとすぐ「美味しい!」と声を上げた。
「おうちゃんのカレー、おいしい?」
「うん!とっても美味しい!」
葉名の顔を不思議そうに見ていた颯だったが、自分もぱくりと一口食べると「おいしい」と呟き、ぺろりと完食する。そしておかわりまで強請ったのだ。
「おうちゃん、またないてるの?」
泣き虫だなぁ、と颯は笑った。おかわりどころか、完食もできなかった毎日を送っていたのだ。食欲が出てきた、それだけで救われる思いだった。
「颯ちゃんがいっぱい食べてくれたから嬉しいんだよ」
「そうなの?はなちゃんも?」
「うん、私も嬉しいな」
不思議そうに葉名の言葉を聞いていた颯は、おかわりも綺麗に完食していた。
「長々と引き留めてしまってすみません」
「いえいえ」
夕食後、颯はあの手この手を使って葉名を引き留めた。葉名は上手いこと彼を誘導し、歯磨きや寝る支度をさせると絵本を読みそのまま寝かしつけた。朝から部屋の片づけを必死でしていた颯は疲れ切っていたようであっという間に眠ってしまった。
「旺也さん、帰る前に少しだけお伝えしたいことがあって」
「あ、ああ」
「私、あのアパートに引っ越してくるまでは母子家庭や父子家庭のご家族の支援をするお仕事をしていたんです」
「ああ、だから」
颯への声の掛け方も遊び方もとても手慣れていた。
「だから、子どもと関わることも好きですし、もし私が力になれることがあれば遠慮なく教えてくださいね。この時間、颯ちゃんの相手してやってほしい、とか気軽に言って下さい」
会ったばかりの人間を信用するのも難しいかもしれませんが、と彼女は付け加えた。
「いや、葉名さんのことはもうすっかり信用してるよ」
「ふふ、嬉しいです」
「すごく有難い話だけど、迷惑では……」
「そんなことありません。お二人に仲良くしてもらえたら私も嬉しいんです」
優しく微笑む彼女に、旺也はいつの間にか頷いていた。
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