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しおりを挟む「ごめんなさい、何かご不快な思いをさせてしまいましたか……?」
人の好さそうな彼女は眉尻を下げ、申し訳なさそうに旺也に尋ねた。
「ちが……そ、颯が、は、話し」
旺也の目から大粒の涙が零れた。これでは不審者だ、早く泣き止まないと、そう思うのに涙は止まってはくれなかった。目を丸くした彼女は二人を駐車場の端にある木陰へと移動させ、同じく目を丸くしている颯に「大丈夫よ」と優しく声を掛けていた。
暫く経ち、漸く涙が止まると旺也はぽつりぽつりと涙の訳を語った。妹が事故で亡くなったこと、息子の颯が遺されたこと、颯の気持ちが荒れて言葉を話さなくなってしまったこと、三ヶ月ぶりに彼の声を聞いたこと……初対面の相手に何を話しているのか、と旺也自身も思ったが彼女は穏やかに話を聞き彼女のタオルハンカチを差し出してくれた。
「おうちゃん、いたい?」
心配そうに旺也を覗き込む颯を見て、また涙が込み上げた。
「颯ちゃんの声聞けて、嬉しいって」
「うれしいの?」
「うん、嬉しくって涙が出ることもあるの」
優しく微笑んでそういった彼女に、颯はへにゃりと笑った。彼の笑顔を見るのもまた三ヶ月ぶりだった。
「はい、これ」
少し待っていて、とアパートに戻った彼女が旺也と颯に差し出したのは、冷たいお茶のペットボトルと……
「これ!おんなじ!」
彼女の車を指さし、颯は飛び跳ねた。彼女が差し出したのは先程のラジオステッカーだった。
「……あの、いいんですか?貴重なものじゃ……」
ラジオ番組のステッカーは抽選のことも多く、滅多に当たらないと聞いたことがある。見知らぬ人間が受け取ってはいけないものだと思えた。
「ふふ、大丈夫ですよ。まだ持ってるんです」
「おねえちゃん、もらっていいの?」
「うん、どうぞ!」
「へへ、ありがと!」
颯は大事そうに受け取ったステッカーを胸に抱き締めた。その様子を見ていると、彼女への申し訳なさよりも有難く受け取りたい気持ちが上回った。旺也が何度もお礼を伝えると彼女は嬉しそうに頷いた。
これが彼女――葉名との出会いだった。
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