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しおりを挟む澪の葬儀から三ヶ月経っても、颯が言葉を発することは無かった。家に籠っていると、颯も自分も余計に気が滅入ってしまいそうで、旺也は出来る限り外に出るようにしていた。颯の機嫌が悪く、外に出たがらないことが多かったが、この日は機嫌よくスムーズに外に出ることができた。
日差しが強く、夏が近付いていた。颯に帽子を被せ、靴を履かせる。玄関を開けると、日が眩しく二人して目を細めた。小さな手を繋ぎ近くの公園を目指していたが、家から出て少し経ったところで、颯は繋いでいた手を解くと急に走り始めた。
「……っ、颯!」
ぶわりと澪の最期を思い出す。車道を走る車は少なくない。颯を必死に追いかけ、大声で呼ぶ。
「颯、待て!止まれ!」
だが、颯は見向きもせずすぐそばのアパートの駐車場に入っていく。そして停められた一台の車に近付いた。
「これ、なあに?」
「ん?ああ、これはね」
颯は車に貼られたカラフルなステッカーを指さし、車の傍に立つ女性に尋ねた。女性はしゃがみ込むと、颯に目線を合わせてにこにこと笑いながら答えた。
「これは……ラジオって分かるかな?」
「らじお?」
「車の中とかで音楽聞いたり、お話聞いたり」
「わかるよ!ままがきいてた」
「そっかぁ、ママが聞いていたんだね」
「うん!」
「そのラジオにお手紙送ると貰えることがあるんだよ」
颯は彼女の車に貼られたステッカーがいたく気に入ったようで女性にあれやこれやと質問を重ねた。
「颯……」
二人の会話に呆然とし、固まった旺也に颯も女性も戸惑いの表情を浮かべた。
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