【完結】お高い魔術師様は、今日も侍女に憎まれ口を叩く。

たまこ

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 その日、リイナは侍女長のマリアと屋敷中の掃除をしていた。洗濯物は外注で頼んでいるが掃除や屋敷の手入れはリイナとマリアの仕事だ。小さな屋敷ではあるが、毎日忙しく働いている。


 だが、リイナは仕事が嫌になったことは無い。侍女長も執事も高齢で、リイナを娘や孫のように可愛がってくれている。両親を早くに亡くしたリイナにとって、この屋敷が大切な場所となっていた。


「リイナ。ロナルド様が呼んでいるよ。」


 掃除中のリイナへ執事のマシューが声を掛けた。リイナはマリアにその場を離れる旨を伝えた後で、執務室に向かった。


 コンコン。

「ロナルド様。リイナです。」


「入れ。」

 リイナがドアを開けた瞬間、ポイッとピンク色の小箱が投げられた。リイナは驚き慌ててキャッチすると、ロナルドはガッカリしたような不満げな表情を見せた。


「動体視力だけは良いようだな。」


「投げないで下さいって、いつも言ってるのに。何ですか、これは?」


「職場で貰った。俺はいらないからお前にやる。」


 よくよく見てみると可愛らしく包装されたそれは、人気のスイーツ店の物だった。


「うわぁ!これ、なかなか手に入らないチョコレートの詰め合わせですよ!貰って良いんですか?」


「いらないと言ってるだろう。」


「マリアさんたちと食べますね。ありがとうございます。」


 リイナがぺこりと頭を下げると、ロナルドは苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「マリアもマシューも高齢なんだから、こんな物食べさせるな。体に悪いだろう。」


 リイナが“二人ともいつも休憩時間に甘いもの食べてるけど?”と小さく呟き首を傾げると、鼻を抓られる。


「ちょっと!鼻が潰れます!可愛い顔が台無しです!」


「つべこべ言わずにお前が食べろ。あと誰が可愛い顔だ?」


「んもう、分かりましたよ。」


 リイナが渋々頷くと、ロナルドは漸く手を離した。「大事に食べろよ。」と言い、リイナを追い払うように手を振った。


 仕事時間が終わり、リイナは自室に戻ると箱の中には美味しそうなチョコレートがたっぷり並んでいた。一つを摘み口の中に放り込むと、じんわりと染み込むように甘さが広がった。ロナルドの機嫌の悪そうな顔を思い出し、リイナはくすりと笑った。


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