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しおりを挟むまた憂鬱なお茶会に向かう馬車の中、私は何度目か分からない溜息をついた。リシャール様と美女の、あの仲睦まじい姿を考えたらそろそろ婚約破棄を言い渡されるだろう。それとも、彼女が爵位の低い方で私をお飾りの正妻に置いて彼女を愛人とするのだろうか。悶々と考えている内にリシャール様のお屋敷に辿り着いた。
「……。」
「……。」
美味しいお茶も、所狭しと並べられた可愛らしいお茶菓子も、殆ど手を付けられることは無い。ぼんやりと綺麗なティーカップを眺めながら早く時間が過ぎることだけを願っていた。だが大きな声が静寂を破り、簡単にはこのお茶会を終わらせてはくれなかった。
「リシャール!」
「……っ!」
彼の名を呼ぶのは勿論あの美女だ。声が耳に入るとリシャール様はぴくりと身体を震わせた後立ち上がる。私も慌てて立ち上がるとリシャール様は颯爽と私の隣に立ち、私を背に庇うような形で美女と対面した。美女はそんな私たちを気にする様子もなく、この前と同じようにずんずんと近づいて来た。
(どうして私を庇うの……?)
一瞬不思議に思うが、私は小さく首を振った。あの幼い頃、ぶっきらぼうに私を庇ったリシャール様と同じだ。可哀想な私に優しくしている、ただそれだけだ。惨めさで身体中がいっぱいになった。
(そんなのって……。)
「……婚約破棄してください。」
「は……?」
「早く婚約破棄してください。」
「アニエス……何故そんなことを?」
「お二人が愛し合っていることは分かっています。私はお飾りの妻にはなりたくありません。どうか婚約破棄してください。」
もう私の初恋を終わりにしてほしい、そう心が叫んでいた。
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