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 暫く写真を撮影した後、佐藤さんは嬉しそうに目を細めた。


「梨奈ちゃんのおかげで、撮影できたよ。ありがとう。」

「たまたま見つけただけですよ。」

「うん。それでも嬉しいんだよ。」


 一人で行くと何時間もかかることもあるからさ、と佐藤さんは照れたように笑った。


「思ったより早く終わったから、少し散歩してから行かない?」

 昼食の時間にはまだ早い。私が頷くと「良かった。」と笑う。佐藤さんの、斜め後ろを歩きながら他愛ない会話を交わす。私は、少しずつ佐藤さんの隣にいることが居心地が良く感じるようになっていて、それが酷く恐ろしい。


「梨奈ちゃん。」

「はい。」

「この街には慣れてきた?困ったことは無い?」

 困ったこと……。仕事は楽しくて、お客さんはみんな優しい。自分の時間も十分取れるし、節約生活も慣れてきて、たまに有り付ける美味しいものが、より美味しく感じられる。何より、雇い主は、詐欺かと疑いたくなるほど甘い。甘すぎる。


「……困ったことが無さ過ぎて、困っています。」

 佐藤さんは一瞬驚いた顔を見せた後、心底嬉しそうに微笑んだ。私は、この時間を失うことを恐れる程度には、佐藤さんとの時間を気に入っている。だからこそ、佐藤さんが笑う度、心が悲鳴を上げる。
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