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「え?」

 

 はぁ?と聞き返さなかっただけ、偉いと自分を褒めたい。先ほどからリップサービスが過ぎるのではないか。やはり写真館の選択を間違えてしまったのだと、肩を落とした。

 

「あ、あの?」

「駄目かな、俺と付き合うの?結婚を前提に。」

 

 繰り返される言葉に、流石に可笑しいと感じ始めていた。

 

「か、揶揄うなら、他で……。」

「揶揄ってないよ。真剣。」

 

 真っすぐに私を見据える目に耐えられず、思わず逸らしてしまう。

 

「他のお客さんにも……。」

「言ってない。」

「私なんて……。」

 

 ぽろりと零れた自分の言葉に、体の芯が冷えていく。そう、私のことを好きになる人なんていないのだ。分かり切っているのに、可愛いと褒められただけで振り切れないなんて、小娘じゃあるまいし、自分が情けない。だが、彼の言葉は終わらない。

 

「一目ぼれなんだ。友達から、駄目かな?」

「う……。」

 

 誰かを頼ることも、頼みを断ることも苦手な私は、彼のお願いを拒否する術を持っていない。彼の真剣な眼差しから逃れるように視線を辺りに彷徨わせると、ふと一枚のポスターが目に入った。

 

「あ、あの、これなら……。」

 

 私の指さした先を見て、彼は嬉しそうに顔を綻ばせ、頷いた。そこには『アルバイト募集』の文字が大きく書かれていた。

 

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